その一

「思ってたより多そうですね」

一方のピート達は現場である旅館の旧館が見える位置まで来ていた。

旧館から海側はごつごつとした岩場の海岸に続き防風林が植えられており、海岸からの距離は五十メートルくらいだろう。

反対側の陸地側は旅館の庭だった場所や駐車場だった場所があるものの、こちらは荒れ放題でありゴミやスプレーによる落書きが目立っている。

ピート達は旧館の建物の中だけでなく外にも漂う悪霊に気付かれない位置で調査を始めるが、事前の情報よりは状況があまり良くなかった。


「二百万だと少し安いかもな」

「そうですノー」

見鬼君や霊視ゴーグルで周囲の状況を調べていくピート達だが、依頼料にあまり興味がないピートはともかく雪之丞とタイガーは二百万だと安過ぎると感じたらしい。


「なあタイガー、とりあえず外に見える奴だけでも除霊した方良くないか?」

雪之丞とタイガーが悪霊の数や強さを調べる中でピートは報告書に具体的な数や強さに加え状況を書いていくが、魔理はまどろっこしいのが嫌なのか見える範囲だけでもさっさと除霊したいと言い出す。


「まだ除霊すると決まった訳ではないですケン」

「一文字さん、最終的に依頼人の許可が無ければ僕達は除霊が出来ないんですよ。 それにこちらも依頼を受けるかどうかは、横島さん達とも相談しなくてはなりますし」

魔理のあまりに無知な発言にピート達は驚くが、タイガーとピートは魔理に基本的な状況や自分達の仕事を一から説明し始める。

今回は除霊依頼ではあるが除霊の最終的な許可はまだ依頼人から貰ってないし、ピート達が依頼を受けるかどうかは美神事務所の人間の横島とおキヌの意志が必要だとピートは考えていた。


「あの人大丈夫なのか?」

「人のことより、その服はなんなんだ?」

ピートの口から横島の名前が出ると魔理は少し心配そうな不満そうな表情になるが、次の瞬間に雪之丞が発した言葉に周囲の空気は一斉に凍りつく。


「俺も人のこと言えた義理じゃないが、その服は問題だぜ。 どこの世界に暴走族に除霊して欲しい奴がいるんだ?」

「雪之丞サン」

「言い過ぎですよ」

誰も言わなかったことを平然と言い切る雪之丞に、タイガーとピートが止めにはいるがすでに遅かった。

雪之丞は途中で言葉を止めることはしないし、魔理は途端に不機嫌そうな表情に変わる。


「お前らこそなんで事前に止めなかったんだ? 愛想よくしろとは言わんが最低限の常識は必要だろうが」

魔理と雪之丞の間に入るように納めようとするピートとタイガーだが、雪之丞は止まらずに彼らにも何故止めなかったのかと指摘していく。


「私はこの方が気合いが入るんだ。 仕事はきっちりとするし文句は言わせない」

「話しても無駄らしいな。 ならいい」

そのまま雪之丞は魔理の返事を待つが、その返事を聞くと話しても無駄だと判断したらしく魔理の相手をするのを止めてしまう。

結局雪之丞が調査に戻るとピートとタイガーも調査に戻るが、どうしようもないほどの重苦しい空気が四人を包んでいた。



28/100ページ
スキ