その一

「私、美神除霊事務所より参りました。 弓かおりと申します。 本日これから隣の温泉旅行旧館にて霊障調査に入りますので、ご挨拶に伺いました」

そのまま現場の近所から挨拶に歩く横島達だったが、基本的には挨拶をして調査をすることを伝えるだけであった。


「ああ、やっと来たのね。 あそこ昼はそうでもないけど、夜は近くの道路を歩くだけでも見えるから怖かったわ。 それに深夜に肝試しに来る人とかも居て煩くて困ってたのよ」

調査をすることを伝え見物に来たりしないようにと注意事項を幾つか伝えるが、近所の人はずっと怖かったらしく聞いてもいない愚痴をこぼして来る。

まあこれも実際にはよくあることであり、かおりはその人の話を手帳に逐一メモしていく。

依頼人の話や近所の人の話などから霊障の原因や難易度が判明することも多いし、最終的には調査の報告書として依頼人に提出することになるのだ。


「それで霊障の噂が出た前後に、この辺りで何か変わったことはありませんでしたか?」

「変わったことねぇ。 随分前からあそこには夜中に不良みたいな子達が集まっていたけど……。 近くの駐在さんがよく見回りしてくれたから、彼なら何か知ってるかも」

一通り相手の話を聞いた後でかおりは幾つか尋ねてはみるが、さほど大きな収穫はない。

結局かおりは次の家に挨拶に向かうことになる。


「猫が見当たらないんっすか?」

一方横島は近所のお婆さんの家に挨拶に行っていたが、お婆さんは霊障よりも飼い猫が少し前から見当たらないから探して欲しいと言い出す。


「現場かその近くに居たら保護しておきますけど、流石に探すことまではちょっと……」

「そうよね。 ごめんなさいね。 前にあの旧館でみんなで飼っていた犬が悪ガキに殺されたことがあってね。 心配で心配で……」

お婆さんは横島にお茶とお菓子まで出していろいろ世間話をしていたが、中には幾つか気になることがあり横島もかおりと同じく気になることを尋ねては内容をメモしていく。

元々現場の旧館が四~五年前までは集落の集会場代わりにしていたことは旅館の従業員からも聞いたが旧館は今でも源泉かけ流しの温泉が生きており、霊障騒ぎが起きるまでは近所の老人達が露天風呂だけは使っていたらしい。



「なんか分かった? こっちは霊障騒ぎの少し前に、あそこに住み着いていた野良犬が悪ガキに殺されたって話があるが」

「ええ、こちらもその話が聞けましたわ。 村の駐在さんの話では犯人は不明ですが、恐らく近隣の町の不良や暴走族だとか。 犬の亡骸は駐在さんが現場の敷地に埋めたそうですが、かなり酷い虐待をされたようですわ」

「その犬のお墓に関しては毎日散歩してる人が手を合わせたりお水やお花をあげてたみたいですけど、そこもまた何度か荒らされてって言ってましたよ」

その後横島達は二時間ほどかけて挨拶と情報を集めたが、それぞれが聞いた話を合わせるっ気になるのはやはり犬が殺された件だった。



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