その一

依頼人の温泉旅館は地上三階建ての結構立派な温泉旅館だった。

場所は海岸沿いの小高い崖の上にあり、日本海を一望出来るようである。

しかも漁村の集落からは少し離れているので、旅館の周囲は海岸線と広い田園風景しか見えない。


「ようこそおいで下さいました」

そんな旅館で横島を迎えたのは老年に近い支配人の男性だった。

到着した横島達は今晩泊まる部屋に一旦入り荷物を置くと、すぐに支配人に頼んで仕事の話を始める。

まずは依頼書の確認から始まり、依頼を受けた時から今日までの状況の変化も聞いていく。

なお現状で令子が契約したのは、除霊を前提にした調査の依頼だった。

依頼人は調査費を前金で支払っているが、除霊料金に関しては調査後の要相談となっており二百万は最低金額となっている。


「従業員の方や地元の方に除霊について説明はしてますか?」

「従業員には話してますが、地元の人には話してませんが……」

「そうですか。 なら現場の周囲には我々が挨拶しておきます。 あと現場を見た従業員の方には個別に話を聞くこともあるのでご了承下さい」

基本的に支配人との交渉をしていたのは横島一人だった。

かおりと魔理は初めて見る真面目に働く横島の姿に素直に驚いているが、元々横島は令子がオカルトGメンに出向していた時には同様に真面目に働いていたのでおキヌやピート達はさほど驚く様子はない。

横島という男は基本的に他人に丸投げ出来る相手が居る時は正直真面目に働かないが、別に出来ない訳ではない。



「さてどうする?」

「二手に分かれましょうか? 現場の調査も必要ですし、挨拶と情報収集も必要ですから」

支配人との話し合いが終わると横島達は一旦部屋に戻りこの後の話し合いを始めるが、人数が多いだけに二手に分かれて行動することになる。


「じゃあ俺が挨拶の方に行くわ」

二手に分かれての仕事だが一方は現場で調査をすることになり、もう一方は現場の周囲の民家に除霊の挨拶に行き軽く情報収集するのが目的であった。

横島は真っ先に自らが周囲の挨拶に行くことにしたが、これは挨拶なんかに向かないメンバーが多いからだろう。

雪之丞・タイガー・魔理の三人は挨拶と情報収集に全く向かないし、二手に分かれる以上は免許持ちの横島とピートはバラバラならなければならない。

結果的に横島は魔理と組むのから早々に逃げただけである。


「私も行きます」

「それでは私もそちらに加わります」

そのままメンバーを二手に分けるが、雪之丞達は当然挨拶に行く方を選ぶはずもなくおキヌとかおりが横島と一緒に行くことになった。

ちなみに魔理は状況をほとんど飲み込めてなく、横島達が何をするのかもあまり理解してない。

本来六道女学院では除霊の際の行動について細かく教えていたが、魔理は例によって覚えてなかったようだ。



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