その一

相変わらず微妙な空気になるが、食後は予定通り深夜バスで東京を出発した。

慣れないバスでの就寝になかなか寝付けない者も居たが、それでもバスは進んでいく。

そして翌朝になりバスは地方都市に到着にすると、再び別のバスに乗り換えて更に現地へと向かう。

はっきり言って移動だけでも疲れる距離である。


「うわ~、日本海ですね」

移動にも飽きてきた頃ようやく一行は現地に到着するが、そこは日本海に面した海沿いの漁村といった感じだった。

観光地らしい物は特にない何処にでもあるような田舎の漁村であり、依頼人の温泉旅館は村で唯一の観光客が来るような場所らしい。

おキヌ達は一面に広がる海に思わず移動の疲れも忘れて笑顔を見せるが、そんな一行を待っていたのは迎えに来た依頼人の旅館の従業員である。


「いや~、東京のGSって聞いてたからどんな人かと思ったらみんな若いね」

従業員は人の良さそうな中年男性であり、どうやら日頃から宿とバス停の間をマイクロバスで送り迎えしているようだ。

温泉旅館自体はバス停から車で十五分ほど離れた場所にあり、歩くと結構遠いらしい。


「全員じゃないですが、きちんとGS免許も持ってるんでご心配なく」

迎えに来た従業員は横島達の若さに驚いているようだったが、横島は依頼書と自身のGS免許を見せて正式なGSだからと言い切る。

実際美神事務所では横島は見習いであり半人前として扱われているが、外部でそれをいうほど横島も馬鹿ではない。


「ところで依頼の旧館はどんなとこなんです?」

「ああ、旧館は周囲を風避けの防風林に囲まれてる静かなとこだよ。 四~五年前までは地元の人の集会場代わりになってたんだけど、老朽化が激しくって最近は使われてなかったんだ」

マイクロバスで移動する最中、おキヌとかおりは従業員に依頼の現場に関して尋ねて情報を集め始める。

実際にGSが霊障の調査をするのは現場に入ってからだけではなく、関係者や周囲の住民に話を聞くことも少なくない。

言い方はよく無いが依頼人が信頼出来る相手でない場合は、余計に依頼人以外の話を聞く必要があった。

被害や霊障を過小申告して、依頼料金を安くしようとする依頼人は決して少なくはないのだ。

そんな依頼人の嘘で怪我や亡くなるGSも珍しくはない。


「隣接する人家まで距離があるようですが、霊障の発見者は誰なんですか?」

「旅館の人間が定期的に見に行ってたんだ。 ほっとくと悪ガキ共に悪戯されるからな。 お化けを見たのは見回りに行った者はほとんど見たはずだ」

結局旅館に着くまでに従業員からいろいろな話を聞くが、ここで役に立たなかったのはコミュニケーション能力の低い雪之丞・魔理・タイガーの三人だった。

魔理に至っては従業員の人が目を合わせないようにしていたことから、あまり印象がよくないらしい。

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