その一

「よう、久しぶりだな」

そして最後の一人である雪之丞が到着したのは、約束の時間の十分遅れだった。

相変わらず愛想が良くないが、それはいつもと変わらぬ様子でありかおりとの別れを悟らせる態度は今のところない。

まあ様子がおかしいと言うならば魔理は相変わらず横島を無視しており、二人とおキヌやタイガーの間には微妙な空気が流れている。

実はおキヌやタイガーは何とか横島と魔理を和解させたいようだが魔理は取り付くシマもないし、横島も困ったように苦笑いは浮かべるが表情の割には和解に積極的ではない。


「本来は荷物は自分で使う物は、自分で持つか見習いが運ぶべきなんですが」

「いいって。 俺は荷物運びには慣れてるし、弓さん達が疲れても困るからな」

雪之丞も来たことで美神事務所を出発することになるが、かおりは当然のように横島が荷物を運ぶことに少し抵抗があるようだった。

本来上下関係が厳しいオカルト業界では格下の者が荷物を運ぶのが当然だし、立場を平等にするならば分担するべきなのだ。

ただ問題なのは高価な除霊の道具を下手に分担させて壊したり無くしたりしても困ることか。

特にかおりは除霊道具の扱いに全く慣れてない魔理に道具を持たせて壊されるのを警戒しており、素直に分担しようとも言えなかった。


「構いませんよ。 途中で僕達で交代しますから」

「そうですケン」

そんなかおりにピートやタイガーは後で横島と交代して運ぶからいいと告げて、結局最初は横島が運ぶことになる。


(意外に非常識なんですよね)

最後に令子に挨拶をして一同は美神事務所を出発するが、かおりは当然のように横島に荷物を持たせるおキヌの価値観に対し密かに疑問を感じていた。

まあ美神事務所には美神事務所のやり方があるのは理解してるし、効率を考えたら体力のないおキヌが荷物を持つことはないのだろうことは分かる。

だが当然のように任せっきりなことは少し違う気がした。


(氷室さん、もし貴女が中途半端な関係に甘えていたとしても……、私は容赦しませんわよ)

正直荷物に関しての価値観はさほど目くじらを立てるほどでもないので指摘しないが、かおりは横島とおキヌの微妙な関係をなんとなく理解し始めている。

きっと居心地がいい関係におキヌは甘えて居るのだろうとかおりは考えていた。

それに関しては間違ってはないが、かおりは一つ大きな勘違いをしている。

そもそも横島と令子の関係をかおりは見誤っていた。

おキヌと横島の関係を中途半端と言うならば、それの大元は令子と横島の関係なのだ。

しかもかおりはルシオラの存在を知らない。

ルシオラが横島に踏み込み恋人という明確なラインを引いた結果、令子やおキヌがそこに踏み込めなくなったことなど知るはずもない真実である。

まあ令子の場合は性格上踏み込めたとしても、自分から踏み込むことはないだろうが。

知らないからこそ前に進んでいくかおりが、真実を知るのはまだ先のようであった。



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