その三

「弓さん。 彼が凄いとこに引っ越したんですって!?」

そして三年に進級して二週間ほど過ぎた頃になると、またもやかおりの周囲が騒がしくなる。


「誰から聞いたんですの?」

「隣のクラスの子が、高級マンションに入っていく二人を見たって言って言い触らしてるわよ。」

引っ越してから一月程になるが、おキヌと魔理が騒がなかったのでしばらくは静かだった。

しかし流石にバレたらしい。

学校からもそう遠くはない住宅街のマンションであり、かおりも六道女学院の生徒を近くでチラホラ見掛けたので時間の問題だとは思っていたが。


「ええ。 まあ。 霊障物件ですから。」

「流石に美神事務所ともなると違うわね!」

ただ一昔前のように嬉々として自慢すれば周囲が嫌な顔まではしなくても迷惑そうにしていたのに、話さなくなれば根掘り葉掘り聞き出そうとするのだから、かおりはクラスメートに少し皮肉を言いたくなる気持ちを堪えていた。

人が勝手なのは理解はしていたが、悪気のないクラスメートの真逆の対応には呆れるしかないとも言える。


「皆さんも頑張ればいつか住めるかもしれませんわよ。」

「なかなかね。 免許だって取れるか分からないのに。」

実際そう簡単でないのはかおりも理解はしていたが、正直当たり障りのない返答しか言いようがない。


「横島さんはちょっと前まで、六畳一間の風呂なしで頑張ってたんですよ。」

「GSもギャンブルな仕事よね。 免許取れなきゃ修行しても無駄になるし他に応用聞かないし。」

なんとなく困った表情のかおりにおキヌがフォローするように声をかけると、それをきっかけにようやく話が横島から離れてかおりは少しホッとした表情をする。


「ほんとよね。 霊が見えてちょっと除霊が出来ても特技にもなんないわよ。」

「一般の会社で役に立たないもんね。」

女子高という性質上、日頃のクラスの会話なんて夢のない愚痴なんかが多く横島が聞くと女子高の夢が壊れるだろう。

ただまあ三年になっても将来が決められないGS志望の学生にとっては、いっそ諦めて他の道へと考える者も少なくない。

誰もがかおりや横島のような人生を遅れるはずもなく、クラスメートからすればやっぱり顔なんだろうなと少し失礼な本音もあった。

結局かおりが何か言っても、一部のクラスメートには勝ち組の余裕にしか感じないのが事実だった。

流石に横島の元クラスメートのように露骨ではないが。


「除霊に命を賭けれますか? 少なくとも一流のGSはみんな命を賭けることをして強くなってますよ。」

「命かぁ。 そこまで覚悟は出来ないのよね。」

その後かおりはあまり余計なことは言わなかったが、おキヌはクラスメート達の安易な考えを真面目に指摘してプロの厳しさを語っていた。

クラスメートもまた少しお節介だけど人一倍一生懸命なおキヌの言葉ならば、少なくとも反発せずに聞いている。

おキヌほどオカルトと生きることに真面目に向き合ってる人はクラスには居ないだろう。

しかしかおりはもう少し肩の力を抜いてはどうかと思わずにはいられなかった。

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