その三

部屋の中は相変わらず少し微妙な空気が支配していた。

別に母親が息子の部屋に来てはいけない訳ではないし恋人が居るのもおかしなことではないが、はっきり言えば百合子という人間は仕事は出来ても必ずしも対人面がいい訳ではない。

少しキツい言い方をすれば独善的な一面があると言えて、それが間違ってることが少ないが故に余計に対人面が上手くいかない人間でもある。


「へー、六道女学院なの。凄いわね。」

尤も百合子に悪気はないのだが、強引な一面がすでに見えていてかおりは父と似た何かを感じてならない。

幼い頃より闘竜寺の跡取りとして育てられたかおりは当然冠婚葬祭は手伝っていたし、中でも葬式は一番多かった。

立派な肩書きがあり弔問客が多いのに儀礼的に来てる人ばかりな葬式や、逆に困った奴だったと言われ弔問客も少ないのに本当に悲しみに暮れる葬式など様々だ。

残される家族に親戚縁者も故人より葬式費用を気にする人などまあ本当にいろいろ見てきている。

百合子は横島とは真逆の立派な人なんだろうと考えたが、同時にお互いに理解できてない部分があるのではと思わざるを得ない。

正直なところ横島はこの人に反発して、今の横島になったのではと思ってしまう。

親子とは難しいとかおりは百合子と当たり障りのない話をしながら改めて感じていた。


「ゲッ! なにしに来たんだよ!」

「あんた、それが久々に来た親に対する態度かい?」

「もう高校も卒業したんだ。 放っておいてくれ!」

しかし横島が帰ってくると微妙な空気がそのまま更におかしな空気となる。

横島はあからさまに嫌そうな顔をするし、百合子もそれに対して睨み付けて力で押さえようとしかしないのだ。

まあ横島からすると前回の帰国の時に好き勝手された苦い思いが強く、またろくでもないことをしに来たとしか思えなかった。

基本的に横島の話や言い分は聞かないし認めない百合子は昔から力で言うことを聞かせようとするが、それが横島には一番嫌だった。


「半人前がでかい口叩くんやない!」

「親父の浮気一つ止められねえ癖に偉そうなこと言うなよ!」

「お互いそこまでにしてはいかがです? それと冗談でも暴力を奮うことはいかがかと思いますわ。」

売り言葉に買い言葉と親子喧嘩する二人にかおりは思っていた以上に拗れてることを悟るが、その時百合子が横島の胸ぐらを掴んだ瞬間に流石に見てられなくなり止めに入る。

百合子はそのままかおりにも怒気と殺気を向けるが、かおりは表情一つ変えずに百合子が掴んでいた胸ぐらを剥がして横島を解放した。


「力でも怒りでも何も解決しませんわ。 お母さんの方は話をしたいなら予め連絡するべきだと思います。 GSは不規則な仕事なんです。 何日も家を開けることがありますわ。 横島さんの方は海外から長い時間かけて帰国したお母さんにいきなりあの言い方はよくありません。」

元々の性分もあるのだろう。

かおりは双方にはっきりとダメ出しをして冷静になれと言うが、そんなかおりの姿に百合子と横島はあっさり毒気を抜かれてしまう。

正直横島家では日常茶飯事のケンカなのだが、そこまで言われると双方共に返す言葉がない。


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