その三

日が暮れると新居の窓からは都心の夜景が見えていた。

リビング兼ダイニングの床は大理石であり照明は天井ばかりではなく間接照明があちこちにあり、部屋全体としては白いので灰色のソファーや黒いテレビ台なんかで無難に纏めたインテリアにしている。

家具は決して高くはなく普通に安い物だが不思議とこの部屋にあると高級感があるように見えてしまう。

対面式のオープンキッチンではかおりが夕食のすき焼きの準備をしていて横島も少し手伝っていたが、邪魔にはなってないが戦力にもなってなく手持ち無沙汰な横島は部屋をうろうろしてしまいかおりに笑われていた。


「周りの人みんな金持ちみたいっすね。」

「それはまあそうでしょう。 ここの家賃を払うなら少し離れた場所に一戸建てを買ってローンを組んだ方が安いですもの。」

先程買い物を終えて新居に戻った横島は大家と管理人に両隣と下の階に挨拶に行ったが、持参した物は前日に百貨店の地下で購入した高級クッキーだった。

選んだのはかおりで良くある洗剤なんかは意外に使う人の好き嫌いがあるからという理由と、横島の新居が富裕層向けのマンションなのでタオルなどよりはとお菓子にしたらしい。

実際挨拶には管理人を除いて横島が一人で行ったが、両隣や下の階の住人は若いGSが入ると聞いていて来たのがまだ高校生にしか見えない横島なので流石にビックリもしていたが。

ちなみにマンションはオートロックで管理人が常に常駐しているセキュリティの厳しいところなので、かおりも一緒に行き顔見せをしておいている。

合鍵に関しても不規則な仕事だという理由もあり最初からかおりに渡していた。


「場違いな気がしますよ。 やっぱり。」

「GSでもこのクラスの部屋をただ同然で借りれるのは一握りですからね。 いかに霊障物件とはいえ実力も将来性もない方には貸さないでしょうし。」

「一ヶ月位したら出ていけって言われたりして。」

「そうなったら普通の部屋を借りたらいいじゃありませんか。」

しかし現状ではこの部屋はほとんど令子の信頼で借りてるも同然で、横島の実力というよりは美神事務所の若手としての期待値で借りている。

横島としてはそこが気になり自分はこれでいいのかと考えてしまうし、手のひらを返したように出ていけと言われるのではという思いも無くならない。

一方のかおりとしては横島には自分の力で実力を客観的に理解してほしいが、同時に奮起を期待してより上のGSを目指して欲しいという気持ちも無くはない。

別に危険な依頼をやるようになって欲しいとは思わないが、一人の霊能者として横島の実力が何処まで伸びるのか見てみたいという気持ちもあるのだ。


「さあ夕食にしましょうか。」

ただまあ今はこの新居と新しい生活に慣れて欲しいとかおりは考えてるので、特に横島に発破をかけるようなことを言うことはなかった。

少なくとも横島の実力ならばこの程度の部屋など自力でも借りられるのだから。

新しいダイニングテーブルに座り二人用ということで少し小さめなすき焼き鍋に具材を入れて煮込んでいきながら、かおりはこれからの生活を心底楽しみにしていた。

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