その三

横島の引っ越しは三月も半ばに入った頃だった。

すでに新居には新しく揃えた電化製品や家具などもほとんど揃っていて、引っ越し自体も荷物が多くないので業者に頼んだら半日もしないであっさり終わっている。

最後に三年間使った部屋を掃除する為にかおりと一緒に戻り掃除していたが、いざ出ていくとなると三年間の思い出が込み上げてくる。

正直学校にはあまり思い出がなくあっさりしていたがこの部屋には本当に思い出がたくさんある。

お腹を空かした日々や夏は暑く冬は寒かった日々など苦労も多かったが、この部屋でルシオラが待っていた日やかおりと一緒に居た日々など忘れられない思い出も多い。


「次にどんな人がここに入るんでしょうね。」

自分が大人になりあんな立派なマンションに住むなんて横島には未だに信じられない部分もあり、この部屋には次に入る人はどんな人でどんな生活をするのだろうと考えてしまう。


「また誰かが夢を抱いてこの部屋に引っ越して来て、夢を叶えて出ていくのかもしれませんわ。」

一方のかおりもまた少ししんみりとした心境になっていた。

初めて部屋に来たのは横島が風邪を引いていると聞いた時で、呼ばれてもないのに勝手に来てしまったことが今になってみると懐かしくもあり少し恥ずかしくもある。

初体験をしたのもここであるしかおりにとっても生涯忘れられない場所になるだろう。


「そうかもしれないっすね。」

最後に三年間の汚れなんかを綺麗に落とした部屋で記念にと一緒に写真を撮り、親しかった小鳩一家に引っ越し先を教えて挨拶をしたら大家さんに鍵を返し横島とかおりはアパートを後にした。


「今日の夕食は何がいいですか?」

「うーん。 ハンバーグとか。 いや奮発してすき焼きとか食いたいっすね。」

「すき焼きはいいですわね。 すき焼きにしましょうか。」

アパートの敷地を出て慣れ親しんだ駅までの道のりを歩き、新居に帰る二人だが横島も鍵と共に全てを思い出にしたのだろう。

早くも新居でのこれからの生活を楽しみにしつつ、二人で新居で最初の夕食の相談をしながら楽しげに帰っていく。

実はこの日は土曜なので新居の最初の夜は一緒に過ごそうとかおりも泊まる予定にしていて着替えを持ってきている。


「そういや食いもん何もないんっすよね。」

「インスタント食品ばかり食べるのはダメですわよ。」

一応今日から住めるようにといろいろ揃えたしキッチン関係なんかは鍋や食器など足りない物を買い足したりしてるが、横島は相変わらず料理が出来ないのでラーメンやらレトルトやら食べ物を買わねばならないし調味料なんかもまだ買ってないので帰りにマンション近くのスーパーでかなり買い出しは必要だった。

ちなみにここしばらくはかおりの母からの差し入れと、かおり自身が部屋を訪れた時に簡単に料理を作っていたので以前よりもかなり健康的な食生活になっている。

奮発したといいつつコンビニのちょっと高い弁当やら牛丼屋の特盛を食べる横島に、かおりが霊能者として体が資本なのにそれではダメだとお説教した末に自分が作った方が早いと作るようになっていた。

まあ三食全て流石に大変なので野菜のおかずを中心に弁当なんかと一緒にたべるようにと横島の躾を早くも始めていたりする。


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