その二

翌日の日曜は美神事務所総出の除霊を行っていたが、令子とおキヌは女の直感から横島とかおりがとうとう一線を超えたことを悟っていた。

横島とかおりの二人は特にいつもと変わりなくしてるし横島でさえ浮かれた様子はないものの、付き合いがそれなりに長く横島を良くも悪くも知る令子とおキヌからすると本当にもうあの頃の横島は居ないのだと改めて感じている。


「引っ越しするの?」

「ええまあ。 もう仕送りも来ませんし学校に行かないならあそこは少し不便なんっすよ。」

しかし令子もおキヌもこの日をすでに覚悟していたらしく二人は自分が思う以上に冷静で、仕事の合間に不動産雑誌を眺めていた横島に普通に声をかけていた。


「霊障物件でいいならこの業界タダみたいな値段で住めるわよ。 私はやらなかったけど若手のお金がないGSとかは万が一悪霊が出たら祓う代わりにタダにして一年住むとか時々あるもの。」

「霊障物件っすか? そういや弓さんも言ってましたけど大丈夫なんっすか?」

「除霊は済んでるから二度も出るなんて滅多にないないわよ。 だいたいもし出ても悪霊の一つや二つアンタなら霊波刀なり文珠なりで一発でしょ。 ただ評判とか噂でも安くなってるだけだしGSが入ると大家も隣近所も喜ぶわね。」

基本的に貧乏性の横島はとにかく安くと探していて、事務所への通勤時間と交通費にかおりの自宅からの距離を考えて雑誌とにらめっこしている。

令子はそんな横島に笑いながら若手のGSのちょっとした裏技を教えてやっていた。

昨日かおりもちらりと言っていたが霊障物件や事故物件は評価が落ちたり次に入る人がなかなか見付からなかったりとなることがあるので、若手のGSなんかが代わりに住むことはオカルト業界ではまあよくあるらしい。

例え霊障物件なんかでも前はGSが住んでましたと言えばそれなりに安全だと言える訳だし。


「えーと、どうしましょうか。」

「今は知らないけど知り合いの不動産に聞くだけ聞いてあげるわよ。 アンタの場合はとりあえず勉強兼ねて一回見に行ってみなさい。 不動産屋とかはGSのお得意さんだから顔を覚えて貰うだけでもいいし、それに霊障物件が無きゃないでも私の名前なら悪い物件は回してこないと思うしね。」

ただ元々臆病な横島は霊障物件ではなく普通の安い物件をと考えていてイマイチ気が進まないようだが、令子はこの機会に横島にはGSの勉強の一貫として知り合いの不動産に行くようにと言いつけていた。

横島の実力にかおりが出入りするならほぼ心配はないし横島に必要なのは基礎知識と社会勉強になるため、この機会はまたとないものではある。


「良かったですわね。 霊障物件など問題ありませんわ。 だいたい寺などは霊がよく出るんですから。」

ちなみに令子の提案に一番喜んだのはかおりで彼女としては令子の話を知っていたが、闘竜寺関連の人脈が使えぬ以上は宛がなく実は令子に近々頼もうと思っていたという事実がある。

横島が二の足を踏む霊障物件も寺育ちのかおりからするとだから何と言わんばかりに全く気にしないらしい。


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