その二
二月も下旬に差し掛かる頃、かおりの両親は正式に離婚していた。
「話し合おうって一言言ってくれればね。」
離婚届けは母から書き父に送ったその日に弟子を通じて離婚届けを提出したことだけが伝えられている。
すでに父から心離れている母も離婚成立の連絡が来た日にはかおりに対して複雑な本音をぽつりと溢していた。
多くを望んだつもりはないし一言話し合おうと言ってくれれば、話し合いには応じたし妥協もしただろう。
二ヶ月別居して待ったが結局何も変わらない現状に母は離婚とパートの働き口を見付けて新たな人生を歩む決心をしている。
形式上円満離婚のため慰謝料は発生しておらず親権についても話し合いはされてない。
「闘竜寺の後継者は弟子から選ぶと言ったそうよ。 でもほとんど継ぐべき寺とか家がある子達だからどうなることやら。」
一方の闘竜寺ではかおりが飛び出して以降何事もなかったように修行と日々を送っていたが、二ヶ月になったことで父は後継者問題を口にして弟子から弓家と闘竜寺の後継者を選ぶと告げたらしい。
本来ならばかおりとの結婚をさせての後継者にしたかったのだろうが、それも叶わぬ以上早く後継者だけでも決める必要がある。
第一に闘竜寺の弟子達は全て寺を持つ寺社系GSの子弟達なのでほとんどが継ぐべき寺があり、僅かに継がなくていい可能性がある二男や三男が居てそこから選ばねばならないが弓式除霊術を全て仕込むには長い時間が必要で今から教えねば不慮の事故などで父がなくなれば弓式が途絶える可能性すらあった。
もちろん弟子本人の意志もあるので後継者が決まるからまだわからぬ状況である。
「本当に何を考えてるのやら。」
「離婚に応じたのがあの人の優しさなのよ。」
祖母は最後まで話し合おうともしない父に相変わらず嫌悪感を露にしていたが、母は見方を変えれば後継者として期待して育てた娘をあっさりと手放したことが父の優しさなのだと語った。
「かおり。 貴女もよく覚えておきなさい。 今時離婚なんて珍しくないけど人と人、家と家の関係は当人同士だとどうにもならないこともあるの。 弓家は特別だけどね。」
闘竜寺の現状は必ずしも良くない。
出ていった母と娘が一向に帰ってこないことに檀家は不安を感じているし、無口で無愛想な父には軽々しく声をかけることすら出来ないのだ。
核家族化が進み生まれ育った土地を離れることも当たり前になってるこの時代において、葬式仏教と化している者は檀家で在り続ける意味を見出だせない者も少なくない。
加えて今まで闘竜寺と繋がりを密にしていた高齢者達が母が居なくなり闘竜寺と繋がりを持てなくなるのは本当に深刻な危機と言えて、別居状態が長く続くよりは離婚をした方がいいと母は考えての決断でもある。
父は無口で無愛想ながら真面目で誠実な人なので、上手くいけば再婚の可能性もあるし新しい妻と子を作り後継者にすることもあり得なくはない。
母として戻る気がない以上は早く決断した方がいいとの考えは父を想ってのことでもあった。
「話し合おうって一言言ってくれればね。」
離婚届けは母から書き父に送ったその日に弟子を通じて離婚届けを提出したことだけが伝えられている。
すでに父から心離れている母も離婚成立の連絡が来た日にはかおりに対して複雑な本音をぽつりと溢していた。
多くを望んだつもりはないし一言話し合おうと言ってくれれば、話し合いには応じたし妥協もしただろう。
二ヶ月別居して待ったが結局何も変わらない現状に母は離婚とパートの働き口を見付けて新たな人生を歩む決心をしている。
形式上円満離婚のため慰謝料は発生しておらず親権についても話し合いはされてない。
「闘竜寺の後継者は弟子から選ぶと言ったそうよ。 でもほとんど継ぐべき寺とか家がある子達だからどうなることやら。」
一方の闘竜寺ではかおりが飛び出して以降何事もなかったように修行と日々を送っていたが、二ヶ月になったことで父は後継者問題を口にして弟子から弓家と闘竜寺の後継者を選ぶと告げたらしい。
本来ならばかおりとの結婚をさせての後継者にしたかったのだろうが、それも叶わぬ以上早く後継者だけでも決める必要がある。
第一に闘竜寺の弟子達は全て寺を持つ寺社系GSの子弟達なのでほとんどが継ぐべき寺があり、僅かに継がなくていい可能性がある二男や三男が居てそこから選ばねばならないが弓式除霊術を全て仕込むには長い時間が必要で今から教えねば不慮の事故などで父がなくなれば弓式が途絶える可能性すらあった。
もちろん弟子本人の意志もあるので後継者が決まるからまだわからぬ状況である。
「本当に何を考えてるのやら。」
「離婚に応じたのがあの人の優しさなのよ。」
祖母は最後まで話し合おうともしない父に相変わらず嫌悪感を露にしていたが、母は見方を変えれば後継者として期待して育てた娘をあっさりと手放したことが父の優しさなのだと語った。
「かおり。 貴女もよく覚えておきなさい。 今時離婚なんて珍しくないけど人と人、家と家の関係は当人同士だとどうにもならないこともあるの。 弓家は特別だけどね。」
闘竜寺の現状は必ずしも良くない。
出ていった母と娘が一向に帰ってこないことに檀家は不安を感じているし、無口で無愛想な父には軽々しく声をかけることすら出来ないのだ。
核家族化が進み生まれ育った土地を離れることも当たり前になってるこの時代において、葬式仏教と化している者は檀家で在り続ける意味を見出だせない者も少なくない。
加えて今まで闘竜寺と繋がりを密にしていた高齢者達が母が居なくなり闘竜寺と繋がりを持てなくなるのは本当に深刻な危機と言えて、別居状態が長く続くよりは離婚をした方がいいと母は考えての決断でもある。
父は無口で無愛想ながら真面目で誠実な人なので、上手くいけば再婚の可能性もあるし新しい妻と子を作り後継者にすることもあり得なくはない。
母として戻る気がない以上は早く決断した方がいいとの考えは父を想ってのことでもあった。