その一

魔理の件を放っておけばいいと半ば突き放した横島の言葉に怒りが冷めたかおりは、令子がいいならば余計なことを言うのは止めようと考えて魔理の話は終わる。


「そういえば横島さんはやはり将来は独立するのですか?」

そんな落ち着いたかおりは以前から聞きたかったことを、ふと横島に尋ねた。

実のところかおりは横島のことを何も知らないことを自覚しており、ゆっくりと一つ一つ聞いていくつもりだったのだ。

おキヌから幾つか聞いた話はあるが、正直よく分からない印象しかない。

流石に唐突に過去や私生活を根掘り葉掘り聞く訳にもいかないので、将来の話から振ってみたようである。


「……どうだろうな。 将来なんて全く考えてないし、実はGSを続けるかどうかも考えてなかったりするんだ」

突然かおりに将来を尋ねられた横島は思わず《美人の嫁を手に入れて退廃的な生活をする》との理想を思い出すが、それを口に出すことはなかった。

いや正確には言えなかったというべきかもしれない。

その瞬間失った大切な人の顔が頭に受かんでしまい、言葉が出て来なかったのだ。


「弓さんが知ってるか分からんけど、俺さ一年くらい前までは霊能力なんてないただの荷物持ちだったんだよ。 GS免許取ったのも成り行きだしな。 ぶっちゃけ一生の仕事にするのかって聞かれると答えがでないんだ」

それは令子やおキヌには言えない紛れもない横島の本音だった。

実際横島の周辺人物はほとんどは横島が当然GSを続けると思っているし、横島もそんな周辺の考えは理解しているので横島の本音を知るのはたまに遊びに行く妙神山のメンバーくらいだろう。

横島もパピリオには本音を話しているし、心を見抜くヒャクメが居るのでヒャクメや小竜姫にも話している。

ただ令子やおキヌには言えない本音だし、二人に伝わる可能性がある人物には言ったことはない。


「……一年? ……そんな」

「やっぱ知らなかったか? 雪之丞には前にちらっと話したんだがな。 ただあいつ過去には興味がないって聞かなかったんだ」

一方横島の将来の話から予期せぬ過去を聞いたかおりは、驚きのあまりその言葉が本当なのか冗談なのかすら判断出来ない状態だった。

基本的に霊能は先天的に才能がある者がほとんどであり、時折横島のように後天的に目覚める者も居る。

しかし才能に目覚めるのと使いこなすのは基本的に別問題だし、霊能に目覚めて一年と言えば普通は満足にコントロールすら出来ない時期であった。

加えてかおりは横島がGS試験に受けたのが、一年前のGS試験なことを知っているので余計に理解出来ない。

まさか霊能力が目覚めるきっかけを与えられた次の日に、試験に合格するなど考えられるはずもないのである。


「氷室さんも雪之丞もそんなことは一度も……」

「雪之丞は今の強さしか興味がないからな。 おキヌちゃんは俺なんかのこと恥ずかしくて言えなかったんだろ」

横島とすれば将来が考えられない理由として霊能力に目覚めた時期を話したのだが、かおりはあまりに常識はずれな横島の状況に返す言葉が出なかった。


19/100ページ
スキ