その二

その後二人は飲み物やちょっとした軽食を摘まみながら二時間ほどカラオケを楽しんでバレンタインのデートを終えていた。

平日なのであまり時間が無かったこともあり特に贅沢などしなかったものの、こうしてバレンタインの日に一緒に居られただけで横島もかおりも満足している。

横島は早くもホワイトデーのお返しを悩むことになるが、それはそれとして翌日からは霊能の勉強や修行に除霊の仕事と日々のやることは変わらず忙しくも充実した日常を過ごしていく。


「そう言えばご両親は卒業式には帰国するのですか?」

「さあ? 帰国しないんじゃないかな。 四月からは仕送りはやらんとは言われたし。」

そしてバレンタインから数日が過ぎた週末になると横島とかおりは朝から横島の部屋で霊能の勉強を一緒にしていたが、卒業式まで二週間ほどとなるのでかおりは横島の両親が卒業式に帰国するのか聞いていた。

帰国するならば何らかの形で挨拶くらいするべきかと少し悩んでるらしい。


「そうですか。」

「正直会わせたくないような……。」

「私ではダメだと?」

「いや弓さんがじゃなくて、うちの両親がちょっと。」

流石に結婚や婚約なんてまだ考えてはいないが、早いうちに軽く顔見せと挨拶くらい済ませないと将来的に義理の両親になるかもしれない訳だしとかおりは考えるも横島はなるべく会わせたくないのが本音だった。

父の大樹は女癖が悪くかおりが嫌いなタイプに思えるし、母の百合子は基本的に人の話を聞かず自分の思い通りにならないと気が済まない性格なのだ。

前回帰国した時も包丁で脅迫したり無理矢理ニューヨークに連れて行こうとしたりして横島自身うんざりしている。

大樹の浮気には甘い癖に、横島のことになるとあれこれと価値観を押し付けて力ずくで言うことを聞かせようとする母が未だに苦手だった。

無論それはほとんどの場合は世間的には正しいのだろうが、幼い頃から押さえつけられてきた反動が現状であり横島と合わないのは確かになる。


「しかし帰国したら挨拶くらいはしたいですわ。」

「うーん、俺は出来るだけ関わりたくないんだ。」

かおりは真面目だし百合子とも上手くやれそうな気もするが、横島自身が関わりたくないという気持ちが大きく渋い表情をしていた。

そもそも将来を考えて当人のみならず両親ともきちんと関係を築きたいとかおりは考えるも、横島は交際や結婚は当人同士の問題であり両親をそこに可能な限り挟みたくないのだ。

育ってきた環境も違い反発して出てしまったとはいえかおりは闘竜寺で育てられたので、その辺りの価値観は横島よりはだいぶ大人であり古風であるとも言える。


「まあ将来的に結婚が決まったら挨拶するくらいでいんじゃないっすか? 正直俺が両親と一緒に暮らす気ないですし。」

「その、どういうご両親なのか教えて頂けませんか?」

一応横島も将来的な結婚を多少は意識するらしく挨拶はその時でいいと言うも、かおりは根本的な問題として横島の両親と親子関係はきちんと聞いておきたいと横島にその辺りの事情を尋ねることにした。


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