その二

「相変わらず凄いな。」

バレンタイン当日は平日であった。

横島はいつもと同じように学校に行くが今年も山のようなたくさんのチョコを貰っているピートの姿に横島は何とも言えない表情をしつつピートに声をかけた。


「今年は六道女学院の子からも貰ったみたいよ。 横島君は?」

「俺がチョコ貰えるわけねえだろうが。」

「彼女居るじゃん。」

「会うのは放課後だよ。」

過去のようなあからさまな嫉妬をしなくなったのは一重にかおりの存在が理由であるが、それを加味してもピートの姿は決して面白い訳ではない。

尤も横島以上に面白くないのは他の彼女が居ない男子なんだろうが。


「ピート君のチョコって半分以上イベント楽しむためのチョコみたいなもんだから。 横島君が貰う本命とは意味合いが違うのよ。 みんなバレンタインにチョコあげた思い出が欲しいの。」

そんな男子の嫉妬めいた視線と必ずしも望んでない大量のバレンタインチョコに困った表情のピートの周りには、男子よりも女子が集まっている。

女子達は勝手にピートの貰ったチョコの批評などしていたが嫉妬めいた視線を向ける男子達に呆れつつ、ピートが貰うチョコの意味を横島に打ち明けた。


「思い出ねぇ。」

「ピート君だったら誰があげても騒がれないけど横島君なら騒がれるでしょう? 貰える訳ないじゃん。」

「そう言えば前に横島君が貰ったチョコ誰だったんだろうね。 あれよく考えたら横島君貧乏だったし自作自演にしては不自然よね?」

「あんだけ騒がれたら誰も出てこれないって。」

正直横島にはバレンタインにいい思い出が昔からなく、以前に貰った差出人不明のチョコの時のようにトラウマになりそうな思い出が多い。

ただ女子達はあれから二年になることで改めてあのチョコについて話を始めるが自作自演にしては少し不自然だと気付いていて、よくよく考えたら誰かがくれたのだろうがあそこまで騒がれたら言い出せなかったんだろうと理解していた。

当時は昼飯代も事欠く横島がわざわざ自作自演するのも不自然であるし、義理か本命かも分からぬチョコを一つ貰ったところであそこに令子が現れなければあそこまで騒がれなかっただろう。

それに極論を言えば横島はよくネタにされ騒がれるキャラクターなのでモテない代表みたいな扱いになっていたが、そもそも本当にモテないのは横島ではなく話題にも上らぬ聖人君子のアダ名を持つ者達のような存在だった。

ちなみに横島も昨年は少し可哀想だからと義理チョコを幾つか貰っている。


「今年は必要無さそうだけど将来霊障で困ったら助けてくれること期待して義理だけどあげるね。」

「お前さ、もうちょっと言い方ってもんがあるだろうが。」

「えー、だってあの彼女と比べられても嫌だし変な誤解は横島君も困るでしょ?」

今年に関しては義理チョコだが横島もクラスメートからは幾つか貰っていて、中にはあからさまな本音を暴露しつつ義理チョコを渡していた女子もいる。

ただそれでも貰うのと貰わないのでは雲泥の差があり横島自身も苦笑いを浮かべたが決して悪い気はしてない。

もちろん彼女が居るという余裕が全ての原因なんだろうが。

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