その二

「都内は高いなぁ。」

一方横島は高校卒業も間近になったことから引っ越し先を探し始めていた。

本音では今のアパートの部屋にかなり愛着もあるのだが、部屋が狭いこととお風呂がないことは致命的だった。

横島は風呂好きという訳ではないが、仕事が不規則なGSな為に深夜に帰ってくることも多く入りたい時に入れないのはやはり不便なのだ。


「引っ越すんですか?」

「卒業したらな。 流石に風呂なしの狭いアパートだとちょっとあれだろ。」

まだ不動産屋などには行ってないが学校でも不動産情報誌を見たりしてるとクラスメートの注目を集めている。

進学する者の合否は決まってないが就職組は就職先が決まってるので横島のようにすでに先を見据えてる者もまあ珍しくはない。

ただ以前横島を吊し上げにしようとしてかおりに聖人君子のアダ名をつけられた連中などはそんな横島を不満そうに眺めていたが。

あれ以来すっかり聖人君子のアダ名が定着してしまいクラスメートや教師からもネタにされてる彼らだが、どうも進学や就職の状況が芳しくないらしい。

対して彼らに散々ネタにされていた横島の卒業後は一般職より遥かに高額な収入があるGSとして働くことが決まってるし、美人の彼女も居るのだから妬みたくもなるのだろう。


「横島サンはいいですノー。」

一方横島を妬んでる訳ではないが羨んでるのはタイガーであった。

同じ見習いの横島とピートはすでに免許があるので将来が見通せるがタイガーは未だGS免許がないので不安らしい。

実は三年の春に二度目のGS試験に挑戦したタイガーだが運悪くまた強い相手と当たり免許が取れなかったのだ。

一切の外的要素を排除するラプラスのダイスによる組合わせなのでそれが実力と言われるとその通りなのだろうが、タイガーの場合は必ずしも直接的な戦闘に向くタイプではないのでGS試験に合わないという理由もない訳ではない。


「タイガーの場合さ。 精神感応を利用したマジシャンかお化け屋敷かなんかの仕事した方良くないか?」

そんな自身を羨むタイガーに横島は正直あまり気持ちを理解できないのか、GSではなく精神感応を利用した別の仕事を提案してタイガーを驚かせる。

まあこの世界の場合はGSになれない霊能者が芸能人となり霊能を披露したりする霊能芸能人が居たりするので、横島の提案は満更珍しいものではないが。

タイガーの場合は精神感応のコントロールをしてそれを利用した仕事をした方が儲かるのは確かかもしれない。


「横島さんみたいになんとなくGSになった人も珍しいですからね。」

ただピートはそんな横島の割と素直な意見に、一般的な霊能者と横島は根本的な価値観が違うのだと改めて理解した。

横島にとって霊能は所詮は仕事をするスキルでしかなくそれ以上ではない。

ある意味霊能に余計な人生やら目的を混ぜない姿は皮肉なことに令子と近かった。


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