その二

除霊実習からしばらくすると節分を過ぎてバレンタインが近付いていて、かおりは横島へのバレンタインチョコをどうしようかと悩んでいた。


「作ってあげたら? 男の子は喜ぶわよ。」

この日もちょうど母と買い物に来たついでに特設されたバレンタインコーナーを眺めていたが、そんな娘の普通な姿に嬉しそうな母が少しからかうようにアドバイスを送る。

クリスマスもバレンタインもかおりには無縁だったのだ。

小中学校時代も放課後は帰宅してすぐに修行をさせられていたかおりにとってバレンタインにチョコを渡すほど親しい異性なんて居なかったし、気になる異性に渡したところで一緒に遊びに行くことすら出来ない。

決して父親を恨んでなどないが闘竜寺を出て二ヶ月ほどになるが戻りたいと思わないのは、そんな幼い頃からの積み重ねが影響している。


「ちゃんと作れるかどうか。」

「手伝ってあげるわよ。」

少し話が逸れたが今年は当然横島にチョコを渡すつもりで考えているが、修行僧のような人生だったので料理は闘竜寺で母の手伝いをした経験もありそれなりに出来るがお菓子作りなんてのはさっぱりで自信がないらしい。

正直かおり本人は買ったチョコを渡そうかと考えていたが母がやけに手作りを推していた。


「でも中途半端なよりは買った方が……。」

「初めてのバレンタインなんだから気合い入れないとダメよ。 男の子って以外と細かいこと気にするから。 学校でも注目されたんでしょう? この辺りでガツンと決めておきなさい。」

なお母がやけに手作りを推す理由には先日の除霊実習も満更無関係ではない。

六道女学院は女子高なのでその手の噂が広まるのが早いし、今まで眼中にすら入れて貰えなかった横島でさえ優秀な霊能者という肩書きがつくと注目点されてしまったのだ。

別にクラスメートや友人が横島を狙うほどではないが、機会があればとかあわよくばと考えてる者は霊能科全体で見れば一人や二人ではないだろうとかおりは見ている。

横島の場合は令子の弟子という肩書きも注目される理由になるし本人が考えてるよりは見た目も悪くないので、とりあえず付き合ってみてもいいと軽く考えてる女子も探せばそれなりに居るだろう。

かおりはその辺りの女の嫌な部分を横島には言えないので母に愚痴っていたようである。


「誰だって魔が差すなんてことあるのよ? 誰かが手作りチョコをあげて誘ったら若い男の子なら迷うものよ。 ちゃんと捕まえとかないと後で後悔してもしきれなくなるわ。」

結局かおりは母に言われるがままに手作りにシフトして練習用にと少し多目の材料を購入して帰ることにした。

愛だ恋だという段階を越えてお見合いにより闘竜寺に嫁いだ母であるが、母には母なりの想いや考えがあるらしい。

将来なんて分からないだろうが娘に後悔だけはさせたくないというのが親心なのだろう。

それと優しさと強さはなかなか両立するのは難しく優しければ強さが何処か物足りなく、強さがあれば優しさが何処か物足りなく感じることを母は理解している。

横島のようなタイプはしっかり捕まえておかないとその優しさ故に流される可能性もあるのではと危惧しているようでもあった。


83/100ページ
スキ