その二

「熱いわね、弓さん。」

「信じてかぁ。 なかなか言えないわ。」

「あなた達、無駄話してる余裕はありませんわよ!」

仕方なかったとはいえ多くの同学年のクラスメート達の前で横島に声をかけたのはかおりにとって諸刃の刃となる。

衆人の前で熱い関係を露にしたのだから当然だが年若い生徒達には格好のご馳走だったが、かおりは流石に場を弁えてるようで厳しい口調で注意すると除霊に戻った。

しかしおキヌだけはかおりの言葉と表情に全く別の強い衝撃を受けていた。

ルシオラのことも人が気にすることではないと受け入れたことを聞いてはいたし恋人として幸せそうな姿はずっと見ているが、今回のような場面で令子でも納得させられなかったことをあっさりと横島に納得させたのは衝撃以外の何物でもない。

それに信じてというかおりの一言はおキヌの心にも深く突き刺さるほどのものだった。

無論おキヌも誰より横島を信じているが、果たしておキヌがそれを横島に伝えたかと言われると伝えてない。

酔狂や浮わついた気持ちで付き合ってる訳ではない。

その証が衆人の前での横島への言葉だったのだ。

現に横島はそれ以降はミスや見逃した生徒のフォローに走っているのだから。


「氷室さん? 貴女まで気を抜かないで!」

「はい!」

進んでしまったのだ一歩も二歩も。

いつまでも過去ばかり見ていたら自分は二人の背中すら見えなくなる。

それに気づいたおキヌはキツい言葉で叱咤するかおりに力強い返事をして除霊に集中していく。


「いいわね~。 若いって。」

「おば様、そんな悠長な。」

「うふふ~、ごめんなさいね令子ちゃん~。」

一方令子もまた日頃では見られぬ横島とかおりの強い絆を見せつけられて複雑な心境を微かに心に秘めていた。

そんな令子にいつの間にか隣に居た冥菜は我が子のように育ててる生徒の成長を見れたからか嬉しそうだった。


「信じるって難しいわね~。 でも横島君もそろそろ自分を信じることが出来てもいい頃だと思うわ~。」

「横島君に出来るかしら?」

「出来るわよ~。 きっと。」

令子はこの時、冥菜もまた横島を信じてるんだなと理解した。

さほど接点があるわけではないが横島とかおりの関係を早くから知っていたようだし、何より二人が共に歩めるようにと力を貸したのは他でもない冥菜なのだ。

そしてだからこそ冥菜は横島に自分を信じるようになって欲しいと願い、かおりと二人ならばきっと自分を信じるようになれると確信してるようであった。

自分を信じるとは令子が横島に教えられなかったこと。

それに横島はもう一人のGSとして着実に歩み始めてることを改めて見せつけられた令子は、時の流れの早さを感じずにはいられなかった。


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