その二

「悪いわね。 迷惑かけて。」

「私は構わないよ。」

一月も残りわずかとなったこの日令子は唐巣の教会を訪れていた。

特に用事はなかったようだが横島とかおりが美神事務所では無理な修行をする場所として唐巣の教会に来ているので、その礼と様子を聞きに来たようである。


「今更ながら先生の苦労が分かったわ。」

まだ一ヶ月ほどなので取り立てて大きな変化がある訳ではないが、かおりを預かったことで令子は弟子を持つ苦労を今更ながら実感してるらしい。

客観的に見るとかおりの加入はプラスである。

特に教えることがないほど自身で修行も出来るし、あの横島を上手く面倒見て修行をさせてることには令子ですら驚きがあった。

戦力的にもプラスだし今まで断っていた安い依頼を受けるようになると、ならば次もと声がかかる可能性があるのも利点だろう。

ただ遠慮の必要がなかった身内として使っていた横島やおキヌと違い、かおりはやはりお客さまに近く弟子とも従業員ともいう立場になる。

現状では上手く行ってるがやはり相応に気を使ってはいるし、万が一事故でも起こしたらとかきちんと育つのかと考えると令子らしくないほど悩む時があるようだった。


「見守るだけというのもなかなか辛いからね。 しかしそれが師としての本来の姿なのかもしれない。 若い者は若い者なりに考えてるものさ。 年齢が大差ない美神君に言うのもおかしいかもしれないけどね。」

横島とかおりの難しさは唐巣も理解していた。

特にアンバランスなほど力だけを付けた横島の扱いは難しい。

かおりもまた実家である闘竜寺や闘竜寺の所属する仏教系の派閥との問題もあり、下手な失敗をすれば受け入れた令子が叩かれるのは明らかだった。

救いは本人達が背伸びをせずにマイペースで進んでいることか。

かつては力が全てだと考えていたかおりも横島や小竜姫との出会いにより、背伸びをせずに横島と自分の足場を固めるべく地道に修行や勉強を続けている。

横島に至っては始めて自分の人生として霊能と向き合い歩み出したばかりであって、霊能力の成長に追い付いていなかった精神面がようやく独り立ちし始めたのだと見ている。

親は子供に育てられるなどというが、唐巣は師もまた弟子に育てられるのかもしれないと悩みながらも二人を見守る令子を見て思う。


「家も人のこと言えないけど、あそこも本当どうかしてるわ。後継者にするのは構わないけど生き方からやり方まで全て押し付けて上手くいく訳ないじゃない。」

「それがまかり通っているのがオカルト業界なのだよ。 ただ闘竜寺の弓さんはまだ娘さんの幸せを願ってるのだと思う。 私が聞いた話では同じ仏教系の霊能者の集まりで娘さんと奥さんの悪口を言った関係者に激怒して帰ったらしいからね。 弓さんは弓さんなりに悩んでるんだと思う。」

その後令子は愚痴るように弓家の話を口にしていき唐巣が聞いたかおりの父親の話にも呆れた様子しか見せなかった。

実は現時点においても闘竜寺や闘竜寺の所属する仏教系GSの派閥から嫌がらせの類いはされてない。

六道家ばかりではなく唐巣もそれとなく気にかけていたが、どうやら父親も父親なりに悩み苦悩してるようであった。




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