その一

その後話し合いが終わるとかおり達は帰っていくが、横島もかおりと会う約束をしていたので適当な理由で早々に美神事務所を後にしていた。

今日は前回と同じ公園で待ち合わせをしており、横島はデートみたいだと一人待ち合わせをする恋人気分を楽しんでいたが。


(しっかり弓さんも分からんな。 なんで急に優しくなったんだ? カラオケの時までは相当俺のこと嫌がってたと思ったんだが)

ただ横島は正直最近のかおりの変化の理由がよく分からなかった。

一度目にみんなで話し合いした時までは横島を迷惑そうにしていたのに、前回の公園以来急に優しくなったとの印象しかない。

何かあったかと考えてみるが、雪之丞の問題に区切りが見え始めたことくらいしか思い浮かばなかった。


「お待たせしました」

「いや全然待ってないよ」

結局横島はかおりが来るまで優しくなった訳を考えていたが、基本的にかおりに必要とされてる自覚がない横島には分かるはずがないことである。


「これでようやく厄介な問題が終わりますわね」

「そうだな~ こうして弓さんと会うのも終わりか。 寂しいな~」

前回と同じベンチに座りようやく終わりが見えた雪之丞との別れの問題に素直にホッとするかおりに、横島はかおりと会えなくなるのが寂しいと少し残念そうに笑っていた。

しかし寂しいと言葉では言いつつ会えなくなることを受け入れてるかのような横島に、かおりの心はがひどく締め付けられる気がした。

言葉には出せないかおりが横島との関係を終わらせたくないと密かに足掻く一方で、横島は残念だと言葉には出すがすでに関係が終わるのを受け入れている。

その態度に現れない違いの大きさに、かおりには焦りにも似た感情が込み上げていた。


(イヤ……。 失いたくない……)

かおり自身も自分の胸に急速に広がる感情が何なのか分からないが、終わりだと横島に直接言われたことで今まで抑えてきた感情が込み上げ始める。

プライドも何もかも捨ててこの気持ちを打ち明けたいとの想いが最高に高まった時だった。


(私は……、横島さんが好きなんですね……)

かおりはとうとう自分の本当の気持ちに気付いてしまう。

全てを捨てても失いたくないと思う気持ちは決して友情ではなく、愛なのだと理解してしまったのだ。


「……横島さん、除霊が終わってもまた二人で会いませんか?」

「えっ!? まじっすか!? もちろん弓さんに誘って頂けるなら、愚痴を聞くことでも荷物持ちでもなんでもしますよ」

自分の気持ちに気付いたかおりは、自然とその言葉が言えていた。

今は気持ちを打ち明けることは出来ないが、せっかく出来たチャンスを捨てることなど出来るはずがない。

当然横島はそんなかおりの真意など気付くはずもなく、愚痴を聞く相手でも欲しいのかと安請け合いをしてしまう。

まあ横島とすれば美人に誘われて断ることなど有り得ないだけなんだろうが。


(今はこれで十分ですわ。 全てをはっきりさせたら……)

胸の中に広がる気持ちをすぐにも伝えたいと一瞬考えてしまったかおりだが、伝える前に片付けるべきことがある。


(氷室さん、私は負けませんわ)

そして友人でもあるおキヌにも伝えて正々堂々と戦おうという決心をするが、かおりはまだ横島を甘く見ていた。

おキヌ以外にもライバルが居るとは、流石に思いもしなかったらしい。



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