その二

「……その、我慢出来ないものなのですか?」

あまりにもあっさりと謝りプライドの欠片もない様子の横島にかおりの怒りは収まるも、そうすると同時に一方的に意見を押し付ける形になってしまったことを恥じていた。

流石にアダルトビデオで浮気だとまで騒ぐつもりはなく面白くないという感情のままに行動してしまったが、ふと我に帰るとこれではまるで自分の意見を聞いてくれなかった父と同じではと感じてしまう。

正直いろいろ言いたいことはまだまだあるが、自分の意見を言うばかりではなく横島の本音を聞かねばと恥ずかしいのを覚悟で自ら問い掛けるもこれには横島も驚き困ったように戸惑うしか出来ない。

当然横島は女性にそんなことをはっきりと聞かれたことは初めてなのだ。

親しい女性もそこまで直接的に踏み込まなかったしそれは男性経験がなく複雑な関係だった令子やおキヌとて変わらない。


「いや、その。 そこまではっきり聞かれるとなんと答えていあいのやら……。」

時間的に日暮れが迫っていて少し薄暗くなりつつある部屋で真面目に聞かれた横島は返答に窮する。

普段は明け透けでも本気で付き合ってる彼女に対して、今まで散々否定され馬鹿にされてきた恥ずべき煩悩のことを真面目に聞かれてもどうしていいか分からない。

横島としては自分で処理することで煩悩をかおりに向けぬようにと頑張って来たつもりなのだ。

愛と欲の狭間で横島は横島なりに悩みかおりに対して誠実に当たろうとしていたのである。


「……そうなんですね。 この問題はお互いにもっと真剣に考えなければダメですわね。」

「あー、いや。 悪いのは俺っすから。 とりあえず全部捨てますよ。 考えてみれば無神経っすよね。 すいませんでした。」

「ダメですわ。 確かにあまり気持ちが話ではありませんが、ただ横島さんに我慢しろと一方的に言うのは正しいとは思えません。」

結局横島ははっきりと答えないがただ我慢するのは難しいのだろうとかおりは受け取った。

そもそもかおりは少し特殊な家庭環境で育った為に頭が固い部分があるし、夫婦や恋人が普通はどうなのかも噂話なんかのレベルでしか知らない。

ただ一方的に我慢しろと言うのは父親を思い出すようで嫌だった。

しかし横島は悪いのは無神経な自分だと自覚したようで謝りそれで問題を解決にしたいようである。

かおりの言い分は理解するものの、流石に長年叩かれて失敗して来た根源である煩悩を恋人に自ら明らかにするのはまだ出来ないらしい。

尤も根が生真面目なかおりはそんな横島の葛藤に気付かずに一方的に我慢をさせることに納得するはずもなく、二人は真面目に性については話していくことになる。


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