その二

「五百万の三割ってことは一人七十五万か?」

「諸経費を抜くともう少し下がりますわね。 ただ五十万は残るかと。」

さて横島とかおりの美神事務所としての初仕事は無難な廃屋の除霊だった。

依頼料は五百万で除霊と廃屋の浄化も含めた依頼になるものの基本的に経費がほとんどかからぬ二人は相変わらず利益率が高い。

もちろん浄化などには最低限のお札を使うし、文珠もこの程度の依頼で乱発していいものではないので使用を控えてもなお利益率は高いままになる。


「前の年収に近い金額が一回で貰えるとは……、まだ信じられん。」

「あの、私があまり口を挟む問題ではないのかもしれませんが無駄遣いとかは控えて下さいね。」

「大丈夫っすよ。 貧乏が骨身に染みてますから。」

除霊自体はやはり二人が揃うとこの程度の依頼は適正レベル以下となり楽であった。

知識や技術はあれどあまり実地経験がないかおりと、逆に実地経験はあれど知識はなく技術に偏りがある横島であるが互いのないものを補い合えば強みに変わる。

ただかおりは何かと極端な横島がこのあと収入が突然増えた影響で生活が変わることを少し心配していた。

横島の実力だと手頃な依頼に絞ってやっても年収が一千万を越えるのも難しくなく、その分GSに対してやる気を出してくれればいいが収入が突然増えて失敗する人間も世の中には存在する。

恋人とはいえあまり他人のお金に対して口を挟むのを良しとしないかおりであるが、計画性とか客観的な視点とか苦手そうな横島なだけに不安になるらしい。


「そう言えば車の運転免許は取得しないのですか?」

「卒業してからでいいかなって。 歩合になって昼間は時間ありますからね。 都内だとあんまり必要ないっすけど取れる時に取っときますよ。」

その後除霊と後始末を終えた二人は依頼人に確認して貰うと事務所に帰ることになるも、バスと電車での移動は帰宅ラッシュと重なるとなかなか大変なものがある。

特にオカルトアイテムは高価な品もあるので満員電車なんかで潰されたりして壊れたなんてことになると目も当てられない。

渋滞が大変ではあるが高価なオカルトアイテムを持ち運び郊外にも行く除霊には車があると便利なだけにかおりは横島に車の運転免許を取得しないのかと尋ねるも、こちらもまた貧乏が原因の費用がが払えないので行ってなかったらしい。

横島の場合は車の免許の他にも高校卒業するなら住む場所も出来れば風呂付きの物件に引っ越したいとの考えもあり、当分は支出もそれなりにかかりそうな様子だった。


「あと部屋も引っ越しした方がいいかなって。」

「……部屋ですか。 確かにもう少し普通の部屋に引っ越す必要はありそうですわね。」

かおりは横島が卒業を目処に引っ越したいと考えてることに少し悩むも、確かに風呂無しの部屋では何かと不便だろうと察する。

それに言葉には出さないが横島と最後の一線を越えるならばお風呂がない部屋はちょっと嫌なのが本音にあった。

慣れてきたせいか日に日に大胆になる横島は元々明け透けだったこともあり、そっちの期待もかなりしているのは明らかなので引っ越しには賛成のようだ。

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