その二

「弓さんが美神さんの事務所に行ったんですか!?」

「俺もビックリしたよ。」

一方横島の学校ではかおりが美神事務所の所属になったことをピートやタイガーに報告していたが、二人の反応も当然ながら驚きだった。


「横島さんが頼んだんじゃないんですか?」

「まさか。 俺が頼んで美神さんが聞いてくれる訳ないだろうが。 弓さんは六道のおばさんに頼んだって言ってたし、おばさんが頼んだかおキヌちゃんが頼んだんじゃないかな。」

ピートは年末年始に修行場所として唐巣の教会に行った時にかおりが闘竜寺を出たことを教えたし、タイガーも魔理から少し聞いているようで闘竜寺を出たことはあまり驚いてない。

しかし令子の元に行くのは旗から見ると横島以上にあり得ないのではと思うらしくそちらは驚きを隠せない様子だ。


「美神さんもいきなり給料上げるつうし、よく分からんわ。」

ただ驚き具合で言えばついでとはいえ横島の給料が上がった方がピートやタイガーにとっては驚きのようで、あの令子が横島の待遇を改善したことが信じられないらしい。

尤もアシュタロス戦後は事務所を越えたGSが集まる依頼を受ける機会は未だにないので、以前の除霊旅行の説明やら話し合いの際に何度か美神事務所に行った際に見た程度なため気付かなかったようである。


「歩合ですか。 あの美神さんが……。」

「弓さんの話だと条件も悪くないとさ。」

時給255円から利益の三割を受け取れるのだから横島からすると天地がひっくり返るほどの驚きだが、条件は見習いとしては一般的に見ても悪くなく美神事務所という一流だと考えると
かなりいいとのこと。

当面は横島と二人で受けるため報酬は一人当たりで利益の一割五分と落ちるものの、何より仕事は令子が回してくれるし美神事務所のネームバリューで来る仕事なだけに同じ条件の他のGS事務所よりも報酬がいい割にいい仕事が回ってくる可能性が高い。

下手な事務所なんかだとGS自身の仕事ですら事欠く有り様で見習いに自分で依頼を探して来るように言われることも珍しくないらしいし、自分で取ってきた仕事でも利益の八割九割をGS側が持っていくこともよくあるようだった。

現実的に断るほど仕事が来るGSなんて一握りしかしか居なく令子がその一握りの中でもトップクラスなのは言うまでもないだろう。


「横島サンは免許があるからいいですノー。」

「正直そんなにGSになりたい訳じゃないんだがなぁ。 怖いのとか危険なのとか嫌だし。 でも見習いくらいは卒業せんとさ。」

卒業まであと二ヶ月ほどとなり進学組以外はそれなりに就職先など決めていたが、最後まで未定というか面倒だったので美神事務所に就職することにして何も考えてなかった横島とすれば少しまだ複雑な心境もあるようだ。


「別に無理しなくても横島さんのペースでのんびりと仕事をすればいいのでは? 横島さんなら簡単な依頼でも生活出来るでしょうし。 先生に聞いた話だと魔鈴さんのような本業が別にあるGSも世の中には居るようですよ。」

「弓さんにも似たようなこと言われたな。 」

タイガーは単純に免許持ちの横島とピートが羨ましいようだったが、ピートは一般論として見習いを卒業したら自由にやればいいのではと助言する。

横島としてはどうしてもGSは令子のイメージが強いものの一般的には命を賭けた仕事なんてやらないGSが大多数だし、地方なんかだと兼業GSもまあ多いらしい。

兼業GSの大半は宗教系で寺社仏閣の運営なんかをしてるし、地方だとGS事務所を立ち上げるほど仕事も実力のないGSが兼業で農家や漁師など家業を継ぎながらやってたりもする。

その後も横島達は一般的なGSの話をあれこれとしながら互いのこれからのことを考えるが、やはり辞めることを考えてるのは横島だけでありピートとタイガーはGSで生きていくとの信念があり横島はそんな二人が少し羨ましかった。

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