その二

「なかなかやるじゃないの。」

ようやく横島の待遇も決まったその後にはかおりの実力を見るためにと令子・おキヌ・横島・かおりの四人全員での初仕事となるが、かおりの現在の実力には令子ですら少し驚きの表情を見せた。

令子が知るのは一年以上前のクラス対抗戦の時であるが、その時より確実に実力を上げている。


「それ初めてですね? 刀ですか?」

「弓式除霊術の基本の一つである水晶刀ですわ。 弓式除霊術は宝珠を自在に操ることから除霊するのが本来の姿ですから。」

ただ今回は横島やおキヌですら見たことがない弓式の術を使っていて宝珠を刀に変化させて戦っていた。

弓式除霊術を生み出し伝えてきた闘竜寺の本尊は観音菩薩であり、除霊術もまた観音菩薩をイメージして生み出されたものになる。

そのため観音菩薩が様々な姿に変わったという伝承から代々の継承者が試行錯誤の上に編み出して来た宝珠の使い方は意外にバリエーションがあり水晶刀は中でも基礎的な技であった。


「なんで今まで使って来なかったんっすか?」

「水晶観音ならばともかくこの水晶刀なんかだと実は神通棍の方が威力も霊力効率もいいんです。 使い減りはしないのは利点ではあるんですが……。」

ただ技術が発達した現代社会においては必ずしも優れているとは言えぬ技も多いらしく、効率や安全性に費用対効果などを考慮すると一般の霊具を使った方がいいらしい。

今回は実力を見せるという意味で披露したが、実際自分達で除霊するなら神通棍を使うのが安全で一番しっくり来るようだった。


「昔ながらの除霊術っていろいろあるけど最近だと技術の継承目的で受け継ぐ人は居るけど実戦で使うために習う人はあんまり居ないわね。 神通棍とか霊体ボーガン使った方が早いもの。 家も祖父母までは陰陽師系の除霊術を使ってたらしいけどママが受け継がなかったし私も使えないわ。」

「そうですわね。 闘竜寺でも代々弓式除霊術を使ってきた人達が修行しに来ますが、そうでない方は私の知る限りでは居ませんわ。 一般の霊能者と比べて修行する内容も厳しく期間も長いですから。 最近ではその分霊力の向上に修行を振り向けて道具を使う方がはや道だとも言われてますし。」

これからお世話になるからと令子に弓式の技をいくつか見せていくかおりだが、経費が掛からないのは利点だがオーソドックスな除霊をするくらいならば神通棍に霊体ボーガンにお札が一番いいというのはかおりも変わらないらしい。

まあ裕福ではない闘竜寺なんかでは今でも普通に除霊で使うものの、本業として毎日除霊するなら素直に霊具を使った方が霊力を消費せず疲労も少ないのでいいのが現実のようだ。


「まあ、無理にどっちかに絞る必要もないわよ。 ケースバイケースで上手くやんなさい。 手札が多いのは利点だし当面は貴女達にはそんなに難しい依頼をやらせないからどっちも使えるようにするのが理想かしらね。」

結局かおりの実力は予想以上に高く横島が多少足を引っ張っても大丈夫だろうと判断した令子は、かおりに対して弓式と一般除霊の双方を併用することを勧める。

実際闘竜寺ではあまり一般的な除霊方法は教えてないらしくかおりが一般的な除霊方法を知るのは学校で習ってるからであり、そのまま双方を併用しながら実戦でのレベルを上げるのが一番ベターだった。

何はともあれかおりの美神事務所での修行の日々が始まっていた。



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