その二

「弓さん、闘竜寺を出たって本当なの?」

「ええ、本当ですわ。」

翌日になり六道女学院では三学期もいよいよ本格始動するものの、かおりはクラスメート達に闘竜寺を出たことが知られていたらしく質問責めにあっていた。


「なんでまた……。」

「なかなか一言では言えませんが霊能者としての価値観と将来像の違いですわ。 皆さんも多かれ少なかれあるでしょう? 一般社会と隔離されたようなオカルト業界への不満が。 私の人生は闘竜寺の為にあるのではないということを父が受け入れてくれなかっただけですわ。」

令子の元にいるおキヌ同様に闘竜寺のかおりもオカルト業界では勝ち組だと見られていて、実際かおり自身もそのように振る舞っていたが実情は全く違う。

最早下手なプライドなど捨てて取り繕う気のないかおりは、あっさりと闘竜寺の内情と自身の本当の立場をクラスメートにぶちまけてしまった。


「うわぁ……。」

「よく聞く話だけどねぇ?」

「私もそうですが母も我慢の限界だったんですわ。 私にとって父は家族ではなく師匠でしかなかったのです。 正直なところ私は人生を闘竜寺に捧げるのはごめんですわ。」

家族で外食もしたことなく父は家族の前に住職であり師匠でしかない。

そんな闘竜寺の実情は年頃で同じオカルト業界に関わるクラスメート達には決して他人事ではなかった。

無論そこまで極端な例はあまり多くないが、いつの間に婚約者が出来ていたり幼い頃から当然のように修行をさせられていたと言うのはよくある。


「弓……。」

「一文字さん、これも貴女が望むオカルト業界の一面ですわ。 誰もが美神さんや小笠原さんのようなGSになれる訳でもないですし、自由に将来を選べない者すら業界には居るのです。 貴女も本気でGSになりたいならばもっとよくオカルトを学ぶことをお勧めしますわ。」

ほとんどのクラスメートはかおりに同情的だった。

実力と引き換えに何を犠牲にしたのか同じ霊能者であるクラスメート達ならばよく理解している。

そして数少ない理解してない魔理はかおりの知らなかった私生活の苦労に唖然としていた。

その一端はかつて横島が見学したクラス対抗戦の時に知ったが実情はそんな生易しいものではない。

誰もが好き好んで私生活を犠牲にしてまでGSになりたい訳ではないのだ。


「でもさ、これから大変じゃない? この業界はみ出した人に冷たいし。 ネチネチと嫌がらせされるって聞くよ。」

「理事長先生に頼んで新しい修行先である美神除霊事務所を紹介して頂きましたわ。 ここで逃げては必ず闘竜寺を出たことを失敗だったと言われるのでGS免許は取得しますが、その先は絶対GSになるとまだ決めてる訳ではありませんから。」

そのままかおりはこれからのことを話していくが、横島の影響で必ずしもGSになって一生オカルト業界で生きていくばかりではない別の人生も僅かだが考え始めている。

流石に令子の事務所に行くと話すと驚かれたが、学校としてもそれだけかおりに期待しているのだろうと思うとあり得ないことではないと周囲は思うことになる。

そしてオカルト業界の閉鎖的な体質に若い女性であるクラスメート達は心底嫌になる者もまた少なくなかった。



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