その二

「美神さん、横島さんなんで……。」

その後横島は待遇の件を含めて少し考えたいと言った為に、この日はかおりの待遇やら雇用契約に必要な書類を書いて終わることになる。

おキヌはあれだけ求めていた給料アップを横島が迷ったことに驚きを隠せないらしく、横島とかおりが帰ると戸惑い令子にそのことを話していた。


「迷ってるのよ。  多分。  GSになるべきかならざるべきか。  元々GSになりたいって頑張ってた訳じゃないしね。」

「えっ!?  でも弓さんは……。」

「別に一人で独立でもしないなら免許って必ずしも必要ないのよ。  GS免許って一種の除霊するための営業免許だから。  おキヌちゃんだって免許なくても除霊してるでしょ?  おんなじよ。」

ただ令子は横島の気持ちをある程度察していたらしい。

現在の横島にGSに対する熱意はあまりないのだ。

元々横島が強くなりたかったのは令子の為であり、それがルシオラの為となり今はかおりの為になった。


「それにママが悪いのよ。  アシュタロスの時に横島クンを無理矢理死地に送り込んだりしたから。  いつ殺されてもおかしくないことを無理矢理させられる。  そんな免許を誰が欲しい?」

「でもあれはルシオラさん達と……。」

「ルシオラ達が横島クンを生かしたのは結果論よ。  メドーサや他の魔族だったら殺されてもおかしくないわ。  横島クンがママを避けてるのは今更でしょう?」

結局横島にとっては今も昔も霊能は誰かと一緒に居るための手段でしかなく、その為には免許が必要か必要でないかしか考えてないだろうと令子は見ていた。

それと横島は隠してるが美智恵を避けていることは流石に令子もおキヌも気付いてる。

横島自身は文句も恨み言も言わないし事務所で顔を会わせれば普通に挨拶くらいはするが、長い付き合いの二人からすれば横島は西条よりも美智恵を避けてるのは明らかだった。

日頃から顔を会わせれば口喧嘩をする西条は意外に嫌ってはなく、逆に会えば笑顔で挨拶をする美智恵を嫌ってるというか避けてるのは美智恵本人ですら気付いてる。


「同じことがあるとは思わないわ。  でも超法規的に強制徴用なんて厄介なことしてくれたわ。  どっかの馬鹿が横島クンの力に目をつけて同じことさせたがるかもしれない。  まあ私の目の黒いうちは例えママでも二度とあんなことさせないけど。  横島クンに私がそこまで信じられるかしら?」

「美神さん……。」

おキヌはこの時初めて知った。

横島と令子の間にある微妙な距離の理由の一端を。

ルシオラのことばかりに目が行っていたおキヌは気付かなかったようだが、横島と令子に微妙な距離を作ったのは美智恵でもある。

無論仕方なかった部分もあるし横島が責めてる訳ではない。

ただ厄介な霊障の度に強制徴用なんてされたら横島でなくともGSなんて誰もやらなくなるだろう。

要は横島はオカルト業界そのものを信じてないし令子は自分も信じてくれてないと考えてるようだった。



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