その二

「じゃあ、令子ちゃんお願いね~。」

放課後になると冥菜は自らおキヌとかおりを連れて令子の元に出向きかおりを令子に預けて帰った。

そこまでする必要性があるのか分からぬが意外にデリケートで気難しい令子には彼女なりに気を使ってるのかもしれない。


「こうして貴女ときちんと話すの初めてね。」

「この度はご迷惑をおかけします。」

そして冥菜の帰った事務所でかおりはおキヌが見守る中で令子と話すことになるも、互いにこうして顔を合わせてしっかり話したことはない。

令子の表情は可もなく不可もなく横島とおキヌの今後を考えれば受け入れるのがベターだとしかない。


「貴女の件は直接でないにしろ私にも多少の原因があるわ。 一応横島クンは弟子になってるしね。 仕事回したりしたのも無関係ではないはず。 でもまあ闘竜寺の件は私はこれ以上関与しないわ。 家族の問題は家族で。 業界の問題はおばさまが何とかしてくれるでしょ。」

対するかおりは初めから深々と頭を下げて謝罪していた。

いかに六道家が間に入ったとはいえ家を飛び出し師匠たる父に放り出されたかおりを受け入れることは、少なからず令子にも影響があるのは確かだ。

ただ令子はこの状態が自分の少し迂闊な仕事の斡旋もあったと考えていて一概にかおりや横島を責める気はない。

家庭の問題は首を突っ込まないしオカルト業界の問題は仲介した以上六道家に丸投げである。


「煩く言うつもりはないわ。 貴女は私以上にオカルトと真剣に取り組んでる。 ただ横島クンとのことは場を弁えてちょうだい。 貴女を疑う訳じゃないけど横島クンだからちょっとね。」

「はい、美神おねえさま。」

「ああ、あとその呼び方だけは止めてちょうだい。 あんまり好きじゃないの。 六女って女子高でしょ。 その呼び方で寄ってくる子が何人も居ていい思い出ないのよ。 憧れるのは勝手だけど度が過ぎるとね。」

「ああ、なるほど。 気を付けますわ。」

そのままこれから一緒に働く上での話をするが令子はおキヌの為にも自分の精神衛生の為にも横島とのことはキッチリ釘を差し、かおりが口にするおねえさまという呼び方もやめさせていた。

別にいちゃつくなとは言わないが自分達の見てる前でいちゃつかれるといい気持ちなどしない。

ルシオラの時の前科も横島にはある訳だし彼女になるならキッチリ手綱を掴めということであった。


「基本的な修行は出来るってことでいいわね。 知りたいこと分からないことはそっちから聞いてちょうだい。 私からは一々指導はしないから。 まあ貴女の場合は除霊は実戦経験を積めばいいし心配はしてない。 ただ将来的に事務所を開くつもりならそっちを一から覚えた方がいいと思うわ。 釈迦に説法みたいになるけど貴女みたいな真面目に修行したGSが躓くのはだいたい人間関係と事務所の経営よ。」

「そうなんですか?」

「おキヌちゃんも他人事じゃないわよ。 すぐ依頼人に同情するでしょ? あれも本来は危険なのよ。 つまんない同情で怪我しても同情した相手は何にもしてくれないわ。」

そして話は今後のことになるが六道家を介して受け入れる以上中途半端には出来ないし勝手にやれとも言えない。


「あの一文字って子もそうだけど自分のやり方でやりたいなら文句を言わせない実力を付けてからにしなさい。 GSになるには霊能者の実力が必要だけど成功するには社会人としてのスキルが必要なのよ。」

「あれ? 弓さん?」

令子の話はほとんどが社会人としての話に傾いたのはかおりの実力と無計画に闘竜寺を飛び出したことに由縁する。

そんな話が続く中でようやくバイトに来た横島はかおりが居ることに普通に驚いていた。


「今日からうちで働くことになったから。 事務所の中でいちゃついたらシバくわよ。 あんたもいい加減卒業近いんだしシャキッとしなさい。」

「へっ? マジっすか? なっなんでまた。 それに弓さんとのことも……。」

「アンタの隠し事くらい分からない訳ないでしょ。 ちょうどいいわ。 本当は卒業したら変えるつもりだったけどアンタの待遇も変えるわ。 残念だけど見習いは卒業しても変えられないけど。」

美神事務所の一員ながら最後まで茅の外に置かれた横島は何がなんだか分からぬ様子で、そもそも横島からはかおりと付き合ったことさえ報告してない。

まあ横島からすれば聞かれてもないこととクリスマス以降に令子やおキヌに会ったのは昨日なので話すタイミングがなかっただけだが。


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