その二

翌日から横島とかおりは本格的な修行を始める事になり、冬休みの間はとりあえず毎日唐巣の教会にて朝から夕方近くまでかなりみっちりと時間をかけて修行をしていた。

と言っても横島は結局修行のイロハを全く知らないので基礎中の基礎と修行のイロハを教えることから始めねばならず、かおりは三学期が始まる前には最低限の形にはしたいと張り切っている。


「ずっとこんな生活してたんっすか?」

「幼い頃は朝は夜明け前から夜は寝る前まで修行をしてましたわ。 学校に通うようになると早朝と放課後は全て修行してましたから部活も入ったことありませんし。」

お昼時には休憩を兼ねて教会にて昼食にしていたが、食事はかおりが弁当を持参していて食事に少し困ってる気配のある唐巣とピートにもお裾分けとして弁当を振る舞っていた。

弁当作りはほとんどかおりの母が作ってくれてるようだが、流石に闘竜寺にて長年弟子を育てていただけに大量の弁当を作るのも慣れてるらしい。

どちらかといえば怠け癖のある横島はかおりが何故そんなに張り切るのかあまり理解できないようだったが、反発するほど嫌という訳ではないので素直に修行をしている。


「そりゃまたなんとも……。」

「横島君や美神君のようなタイプは珍しいからね。 世間的に言えば二人とも天才肌というべきか。 もちろん君達も相応に実戦で苦労して経験を積んだからこその実力なんだが。」

ただ話に聞いていたこともいざ自分が経験してみるとまた感じ方が違うもので、横島は改めてかおりの人生の壮絶さになんと言っていいか分からぬ様子だった。

そんな横島に弁当を分けてもらっていた唐巣は少し苦笑いを浮かべ横島のオカルトに対する認識や価値観が少し一般的ではないと語り始める。

元々は令子が天才肌でろくに修行をしなくても高い霊能力を持ち技術もあっさりと身につけたのだが、それ故に令子自身もあまり厳しい修行の経験はなく横島にも修行をさせてない。

はっきり言えば師匠には向かないタイプの人で令子自身も自覚していることだが、本来はこういったタイプの弟子は育たないはずが横島は実戦での経験と偶然のきっかけのみで成長してしまったのだ。

横島にしても自分が何となく出来ることを他人が出来ないと言われても説明など出来ないし、あまり実感がなかったのが本当のところだろう。


「やっておいて損はないと思うよ。 君ならやらなくてもなんとかなりそうだけどね。 案外いつの日か役に立つ時が来るもんだ。」

そもそも横島に修行は必要なのかという根本的な疑問に唐巣は正直確かな答えを持ち合わせてない。

このまま実戦経験のみでも横島ならばやれる気もするし、下手に教えて横島の可能性を潰す危険を考えたら自分では指導は出来ないとすら思う。

まあ横島とかおりの場合は小竜姫も関わってるので悪いことにはならないとは思うが、唐巣としては自身の弟子でもある令子の気持ちも気になるところだった。

案外令子もまた横島の才能を理解しているが故に放置していたのではと唐巣には思えて仕方ない。

それに横島に対する令子の複雑な想いを知る数少ない人物であるのでかおりと付き合い変わり始めた横島と、今まで横島を見守りつつ頼っていた令子が今後どうなるのか僅かばかり不安もある。

出来ることは多くないが若い者達がそれぞれ試練を乗り越えて生きて欲しいと願わずには居られなかった。



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