その二

「もう少し本気を出して欲しいのですが。」

「いや~、そんなに手を抜いてるつもりはないんっすけどね。」

その後修行は続くがかおりは横島の意外なというか新たな弱点を発見して少し困ったような表情を浮かべる。

それはかおりと組み手をしてる時に見つけたというか発見したのだが明らかに横島は組み手では実戦より実力を出せてなく、厳密に言えばピートが相手の時とかおりが相手の時とでも微妙に実力に違いがあった。


「横島君には無意識に心理的なブレーキがかかってるようだね。 これも修行らしい修行をしてないせいだろう。 相手に合わせて戦うというのも経験がないとなかなか難しいからね。」

かおりの場合はまるで手加減されてるように感じて少し不快に感じるも、唐巣がそれを否定し横島にはそもそも実戦形式の修行で手合わせをした経験がなく実力を出せないのだと告げる。


「では修行する以前の問題だということでしょうか?」

「君は恐らく幼い頃から人を相手に修行をして来たのだろう? だが横島君はそんな経験が皆無だ。 まして修行とはいえ女性を相手に攻撃すると言うのは勇気が居るし慣れも必要だと思うよ。」

唐巣の言葉にかおりはハッとして横島を見るも横島自身も決して手を抜こうとか手加減しようとしてた様子はなく、厳密に言えば横島は修行のイロハさえ知らない素人同然なのだと思い出していた。

僅かな期間で素人から日本最高峰の実力まで駆け上がった横島の弊害がこんなところにもあったのだと改めて思い知らされてしまった。

正直かおりにとって霊能を使った組み手や対戦は唐巣の指摘する通り幼い頃からしてるので、当たり前に怪我などないように最低限の加減をしながら全力に近い実力で戦えるが横島には無理なのだと言われるとそこに気付かなかった自分の迂闊さに何とも言えぬ心境になる。


「そうでしたわね。 もう少し基礎的な修行のやり方からしていきましょう。」

結局横島は本当に知らぬことは何も知らぬのだと改めて実感したかおりは、基本的な修行のやり方から教えるつもりでやらねばならないのだと考え直していた。

そもそも妙神山にて小竜姫が横島に基礎だけをやらせていたのはそれ以上の修行をする以前の問題だと小竜姫は理解していたのであり、そこを理解してやれなかった自分の落ち度だとかおりは思う。


「そもそも横島君が修行をしようとすることが珍しいことだからね。」

「小竜姫様が弓さんと一緒に修行しろって言ったんっすよ。」

「まさか弓君はもう妙神山の修行を受けたのかい!?」

「正式な修行じゃないっすよ。 一緒やな遊びに行ったついでっすね。 小竜姫様がなんか弓さんと修行するの楽しいみたいで。」

「いや、妙神山に遊びに連れて行くこと自体普通は……。」

一方横島は唐巣に修行しようということになった経緯を語っていたが、唐巣は横島がかおりを妙神山にまで連れて行ったことに驚いていた。

令子経由で横島が妙神山に定期的に行ってるのは知っていたが、まさかかおりを連れて行ったとは誰にも話してなかったので初耳であり驚くのも無理はない。

そもそもパピリオに会いに行くという名目とはいえ修行以外での訪問が許されること自体過去にない異例なことなのだが、裏を返せば誰も妙神山に会いに行こうなんて考えもしなかっただけとも言える。

唐巣はそのことを横島に話すべきか悩むが小竜姫が認めてる以上外野があれこれ言わぬ方がいいと考え口をつむぐことにしていた。


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