その二

「あの、小竜姫様? この差はなんなんっすか?」

「弓さんに必要なのは経験と応用です。 横島さんに必要なのは基礎です。 全く普通の人が出来ないことが出来るのに普通の人が出来ることが出来ないんですから。」

さっそく始まった小竜姫による修行だがかおりが実戦形式で小竜姫と手合わせするのを見ながら、横島はヒャクメとパピリオに見守られつつ基礎中の基礎である瞑想をさせられている。

横島としては痛いのや厳しいのは嫌なので文句がある訳ではないが、あからさまに差を付けられると気になってしまう。

しかし霊力の半物質化や文珠など一般的な霊能者には出来ないことは出来る横島であるが、基礎的な霊力の扱い方は感覚と煩悩などの感情に任せて暴走ぎみに高めるしか出来ない。

結果的に横島には基礎的な修行が必要だと地味な修行をさせられていた。


「霊力の半物質化は素晴らしいのですが……。 霊波刀で物質を壊すことなく掴んでましたし。」

「短期間の実戦ばかりで成長しましたからね。 美神さんが未だに見習いのままにしてるのも理由はそこでしょう。」

かおりは今まで気付かなかった横島の欠点に驚き何故そうなるのか理解出来ないようであったが、小竜姫としては今まで流されるように戦ってきた結果だろうと見ている。

かおりが以前から疑問を抱いていた横島の待遇や立場も、元をただせば見習いを卒業出来ぬ横島の未熟さにあると言われるとそれなりに納得出来る部分もある。

もちろんだからと言って違法な低賃金での雇用を認めるわけではないが。


「まあ横島さんは今が成長期なので十分ですよ。 貴方に必要なのは霊力の基礎的なコントロールです。 それさえ出来れば文珠も今までより効果的に使えるようになるでしょう。」

何が悲しくて妙神山に来てまでこんなことしないといけないのかと内心でぼやく横島であるが、かおりは小竜姫を尊敬の眼差しで見つめていて修行することですら嬉しそうなので小竜姫とかおりは同類かと若干失礼なことを考えていた。

隣ではヒャクメがクスクスと笑ってることから横島の考えでも見ているのだろうし、タイプ的には横島はヒャクメに似ているのかもしれない。


「横島さんはああいう強い女の人が好きなのね。 なら行き遅れになる前に小竜姫も……。」

「あら誰が何ですって。 ああ、貴女も修行がしたいんですね。 いいですよ。 もちろん。 さあ殺りましょうか。」

「ちょっ!? 私は修行は必要ないのね! ヘルプミー!!」

なお見てるなに飽きたのか途中でヒャクメが余計なことを口走ると強制的にかおりと同じ実戦形式の修行をさせられてしまい、困惑するかおりに文官のヒャクメは泣きついて助けを求めるも神族同士の揉め事なんて始めて見るかおりはオロオロするしか出来なかった。


「いつものことだから放っておくでちゅ。」

「あの二人仲いいっすよ。 ちょうどいいんで休憩にしましょうか。」

流石に止めに入ろうかと若干迷うかおりであるが横島とパピリオは見慣れてるからか特に気にしてなく、かおりを誘い三人はヒャクメの悲鳴にも似た声を聞きながら休憩することになる。


「なんか私の中の何かが壊れたような……。」

奇しくもかおりはこの日等身大の神族の姿を見ることにより彼女の中の神族の理想像がガラガラと音を立てて崩れていくが、横島と一緒に居るならこの程度は序の口であることにはまだ気付いてなかった。

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