その二

さて雪之丞が帰った後の部屋では横島とかおりが部屋で唯一の暖房器具であるこたつに入りビデオを見ていた。

冬の部屋では貴重な暖房器具であったが、元々彼女を招くことなど想定してない部屋はソファーどころか座布団もないので唯一と言ってもいいほど寛げるアイテムとなっている。


「この部屋寒いっすよね。 暖房器具買おうかな。」

「慣れてるので大丈夫ですわ。 こう言っては何なんですが闘竜寺も負けず劣らず寒いですから。 本堂も母屋も古いですし。」

ただ古いアパートなだけに隙間風とまではいかなくても寒く横島は申し訳なさげに暖房器具を買おうかと口にするも、かおりは見た目と違い苦労して来た人間なので結構慣れてるらしい。


「へ~。 そうなんっすか。」

「特に冬場の修行は昔からの慣例で暖房など使わない本堂や外で行うのでこんなものじゃありませんでしたわ。」

横島としては闘竜寺をよく知らないのでかおりを普通の女の子と同じように考えているが、かおりが何気なく語る冬場の修行の話になると信じられないと言わんばかりの表情を見せる。


「昔から霊能者は心技体と鍛えねばならないと言われているので、私の場合は苦行のような修行も行いました。 正直近年では必ずしも効率的でないからと一般的な霊能者はあまり行わなくなってますし、六道女学院でも現代の理論に合わない苦行や過度な精神論は否定してますけど。」

一般家庭に生まれ霊能者と言えば令子をイメージしてしまう横島とすれば信じられない話ではあるが、かおりの語る修行は古くから伝わる修行そのままであり現代の霊能の修行とは一線を画くものだった。

それは古くから伝わる伝統の技や知恵ではあるものの、現代のように科学的な見地や安全性はあまり考慮されてない。

実際にそれらの伝統的な修行は長所もあり一概に無駄だとは言えないのだが、六道女学院で統計などを取り調査すると効果はあまり数値としては表れてない。

まあ少数の有能な霊能者を生む確率は確かに高いがその分脱落者も多く、総合的に考えると時間を含む費用対効果は良くなかった。

あくまでも限られた者のみが伝承していくものとして生まれ伝わって来たものであり、現代の社会や霊能者には合わない部分も多いようである。


「小竜姫様のとこの修行は俺も何回か見てますけど普段はそんなに厳しくないっすよ。 命を賭けた試練とかなら別ですけどあれは能力アップとかしますし……。」

「人の修行と武神であらせられる小竜姫様の修行を同一の上で比べるのは失礼に当たりますわ。 極論を言えば人が真似できるものではないのでしょう。 私も前回少し教えて頂きましたがあのような機会を得られるなど普通は生涯に一度あればいいというもの。」

ただかおり個人としては闘竜寺の修行がいいのか悪いのか単純に判断出来ないと考えていて、厳しい修行があればこそ今があると考えているしプライドもあった。

一方の横島は唯一知る修行らしい修行である小竜姫の修行を令子の試練以外にもアシュタロス戦後に何度か見たことがあったのでそれと比較してしまうが、かおりは神族の修行と人間の修行は根本的に違うと考えていて単純な比較していいものではないと語る。


「そうだ、明後日にでもまた妙神山行きません? パピリオにクリスマスプレゼント持ってく約束してるんっすよ。」

「……また私が同行していいんでしょうか?」

「いいんじゃないっすか? 小竜姫様がいいって言ってるんですし。」

共に霊能者としては高い実力がある二人だが横島とかおりは根本的な違いも大きく先程の横島のGSに対する価値観と共にもっとお互いを知る必要があるとかおりは思うが、横島は正直そこまで霊能に拘りがないため話を変えるようにかおりをまた妙神山に誘う。

本来気軽に行っていい場所ではない為にかおりは本当にいいのかと悩むも、横島は小竜姫がダメと言わない限りはいいんだと考えている。

実際小竜姫がかおりを気に入った様子だったのは前回行った時に横島も見ているので、満更無神経でいい加減な訳ではない。

しばらく悩んだかおりだが最終的には行けるものならまた行きたいとの想いが勝ち同行することにしていた。




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