その二

同じ頃おキヌは実家の氷室家で悩んでいた。

一つは数日前のイブの日の夜にかおりから横島に告白したという連絡があったことと、もう一つは令子からの連絡でかおりを従業員として預かって欲しいと頼まれたという件である。

前者は元々は会って話したいたいという話だったがおキヌが帰省しているので会えずに電話で話したのだが、かおりから横島に告白して受け入れて貰ったと聞いた時の衝撃は計り知れない。


「子供の件は聞きましたわ。 でも私は生まれてくる子供の魂の由来まで気にするつもりはありませんから。 どのみち誰かの生まれ変わりが我が子となることは変わりありませんもの。」

しかしそんな衝撃に驚き戸惑うおキヌに追い討ちをかけたのが、横島がルシオラの件を話したこととかおりがそれを受け入れたということだった。

横島もかおりも本当に本気なのだとおキヌはこの時ようやく悟るものの、何故かおりがそれほど簡単にルシオラの件を受け入れたのか理解出来ない。

だがかおりの答えは何処までもシンプルで、それでいてルシオラをよく知るおキヌには出来ない考えだった。


そしてもう一つのかおりが美神事務所に来るかもしれないという話は令子がおキヌの意見を聞きたいと連絡してきていて、年が明ける前には返答をしなければならないと言われている。

正直あまりに怒濤の展開におキヌは気持ちの整理が出来てないのが現状であり、どうしていいか分からない。

横島への気持ちは今も心にあるが同時にもう自分には資格がないと諦めたはずだった。

今までと変わらぬ関係、変わらぬ事務所があればいいと考えていたおキヌにとってかおりの告白も事務所へ来ることも正直想定外だとしか言いようがない。


「私は……。」

ただおキヌも永遠にこのままで居られるとは思ってなく、今しばらくはこのままの関係でと願っていただけなのだが。

しかし流れに身を任せて自らは待つことと見てることしかしてないおキヌには今更どうしようもないことであり、後は美神事務所でかおりを預かる件をどう答えるかしか出来ない。


「横島さんはもう……。」

おキヌもそして令子も気付いていることであるが、横島にはもう令子に対してかつてのような強烈な執着もなければ情熱もない。

表向きな関係はあまり変わってないが目に見えない距離感は確実に開いていた。

無論仲間意識や親愛のような感情はあれども、良くも悪くも仕事場の仲間という普通の関係に落ち着きつつある。

アシュタロスとの戦いの後に令子があまり厄介な依頼を受けなくなったのはそんな事務所の変化も影響している。

もうかつてのように無茶を出来るような関係ではないのだ。


横島に他意はないのはおキヌも十分に理解しているし、元々家族でも恋人でもなければ仕事上の付き合いだった。

今思えば横島は愛されることをずっと望んでいたのだろうし、それに答えたのがルシオラだったのだろう。

そして今また新たな人に愛されそれに答えてしまっただけなのだと、おキヌは気持ちの整理を付けようと一人もがくことになる。




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