その二

結局雪之丞は事情を話し終えると悪かったなと一言の謝罪を残して帰ってしまい、雪之丞から横島とかおりの関係を聞くことも無ければ横島とかおりから話すこともなかった。


「何度もまともなGSになるようにと言ったのですが。」

「あいつの立場も意外に難しいからな。 唐巣神父なんかは一度弟子にならないかって誘ったらしいが。」

雪之丞が帰り微妙な緊張感から解放された横島とかおりは少しホッとするも、結果論ではあるがかおりは信じてやれなかった自分に僅かにモヤモヤしたものを感じているし、こうなる前に雪之丞自身がまともなGSの道に進むようにと以前に何度か話したことがあるらしい。

白龍会の一件で裏切り者の烙印を押された雪之丞の立場は日本のオカルト業界ではお世辞にもいいとは言えない。

ただ情状酌量の余地があることと小竜姫が原始風水盤の一件の後にブラックリストからの削除を働きかけたことで一応のみそぎは済んではいる。

しかしそれはマイナスからゼロに戻っただけであり、GS免許を取得するには再び師匠となるGSを見つけて試験を受けねばならない。

ところが雪之丞は修行出来て生きていく最低限の金さえ手にはいればいいと、もぐりの除霊をしていたのが実態だった。


「あれだけの実力があるのです。 多少の問題があっても免許は取れるはずなのですが。」

実のところ雪之丞の実力を惜しみ裏と表を中途半端に生きるその生き方を危惧した人は居て、かおりばかりか見るに見かねて唐巣も一度弟子に誘ったなんて話も横島は聞いている。

雪之丞がオカルト業界から信頼されるかは別だが実力は確かなので、厄介な依頼なんかは多くなっても食いっぱぐれることはないとかおりは考えていた。


「あいつは強くなりたいんであってGSになりたい訳じゃないからな。」

結果的にあまりいい形ではなかったが雪之丞との関係に完全にけじめをつけることが出来たかおりは、雪之丞を心配しつつもそれは最早他人事でしかない。

一方の横島もようやく雪之丞の一件に区切りが付きやれやれというのが本音であり、同時に雪之丞にまともなGSを勧めるかおりの言葉に微妙な表情をする。


「GSになるのが嫌だと?」

「嫌とまでは言わないが魅力はないんじゃないか? 俺も正直GSになりたいとはあんまり思わんし。」

なんというか才能ある霊能者はきちんとGSになるべきだと考えるかおりに対し、横島は必ずしもGSが全てではないと考えていた。

幼い頃から半ば強制的に霊能の修行をしてきたかおりはやはり霊能と寺しか知らないのが現状であり、刷り込まれたような価値観はなかなか変わらないらしい。


「弓さんと仕事するのはいいよ。 安全に配慮して命の危険もほとんどないしさ。 だけど美神さんなんかは平気で命を賭けるんだよ。 美神さんの母親なんてあわよくば俺を捨てゴマにしようとしたし。 ぶっちゃけそんな生活をいつまでもしたいとは思えないんだよな。 普通でいいじゃんか。 普通で。」

そして横島に関しては霊能に対する認識や価値がかおりと真逆と言っていいほど違う。

かおりも以前にチラリと聞いたことがあるが横島の中で霊能は必ずしも重要ではなく、本音ではGSに魅力もやる気もないのが始めて横島自身の口からはっきりと告げられた。



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