その二

「やれば出来るじゃないですか。」

そのまま部屋の掃除をしていく横島とかおりであったが、狭い部屋だけに半日もかからないで掃除は終わっていた。

いつ以来か分からぬほど小綺麗になった部屋にかおりは満足げであるものの、横島は相変わらずかおりとの距離感が掴めないでいる。


「なんか食べに行きましょっか。」

「そうですわね。 てもせっかくですから何か私が作りましょうか?」

結果的には今のところ関係が変わっても距離感が変わってないが、それは言い換えれば元々恋人に近い距離感だったとも言える。

ただまあやることがなくなると少し間が持たなくなるので横島はかおりを誘い昼食にと外出しようかと考えるも、かおりはデジャヴーランドに行って日も浅いことから少し節約しようかと考え自分が何か作ると告げた。


「いいんっすか? 俺は大歓迎っすけど。」

「ええ。 毎回外食するのも考えものですしね。」

伝統ある闘竜寺の娘との立場と本人の見栄によって周囲からはお嬢様のように見られているかおりだが、何度も説明してる通り闘竜寺は決して裕福とは言えないので実は堅実派だったりする。

かおりとの距離感に戸惑う横島と対称的に、かおりは今後のことを考え外食や外で遊ぶばかりの横島とのデートを少し改めようと考えていた。

横島の美神事務所での収入があまりあてに出来ないのは今更であり、現在の収入の生命線がかおり達との除霊なのは部屋を見れば一目瞭然である。

現在かおりは闘竜寺を飛び出し新しい所属を探してる段階だが、新しい所属が決まれば所属先によっては他事務所の仕事を受けることが不可能になることも十分考えられるので下手すれば横島は再び貧乏に戻る可能性も十分あった。

将来の計画性や堅実さがあればそこまで考える必要はないが横島にそんなものがないのはすでに明らかであり、今からでも無理のない付き合い方に変えるべきだと考えてるらしい。


「ついでにビデオでも借りて来ましょうか。 ちょうど見たい映画があるんです。」

幸か不幸か横島は独り暮らしなので無理に外出して行く場所を探す必要もない。

結局横島は流されるままにかおりの提案を受け入れ、二人は近所のスーパーで食材を購入し午後はビデオでも見ようとレンタルビデオを借りて帰宅する。

トントントンと聞こえる包丁の音にエプロン姿のかおりの後ろ姿に横島も満更でもないのか、ついニヤニヤとしてしまうもかおりは料理もおキヌに負けぬほど出来るので昼食は短時間であっさりと完成した。


「邪魔するぜ………え?」

メニューは野菜と肉の入った焼きそばとスープという昼食にはピッタリのメニューだったが、さあ食べようとした瞬間ノックもしない雪之丞が勝手に部屋に上がり込み横島とかおりの姿に固まってしまう。

この日は冬休みなのでかおりは私服の上にエプロン姿であり、横島宅の大きいとは言えないテーブルで向かい合うように座る二人はどう見ても友達には見えない。


「あら、雪之丞。 久しぶりですわね。 年末年始はこっちに?」

なんというか最悪のタイミングでやって来た雪之丞に横島は頭が真っ白になったように固まるが、一人平然としていたかおりはさも当然のように雪之丞に声をかける。


「……ああ。」

「そうですか。 お昼まだなら一緒にどうですか?」

「……ああ。」

「全くいい加減来るなら連絡くらいしたら? しかもノックもしないで上がり込むなんて非常識ですわ。」

目の前の光景に頭が真っ白になった雪之丞にかおりはそのまま以前と変わらぬ態度で話を続けるも、勝手知ったる他人の家という言葉がそのまま当てはまるようにもう一人分焼きそばを作り始めた。

以前とは変わらぬ小綺麗になった部屋にはかおりのコートがハンガーでかけられていて、かおりの態度がすでに横島とは他人ではないと言いたげである。

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