その二

「クリスマスに相応しくないんっすけどね。 ちょっと昔話聞いてください。 それを聞いてから……」

「私が聞きたいのは貴方の気持ちです! 何か訳ありなのは薄々気付いてましたが、それは後で一緒に考えたらいいんじゃありませんの?」

覚悟というのは自分に一番相応しくないなと不謹慎にも笑いが出そうになった横島は全てを話そうと決意するが、それを遮ったのは少し見上げるように横島をしっかりと見つめたかおりだった。

すべての謎が明らかになると言うのは些か過大表現かもしれないが、かおりはずっと知りたかった秘密を聞きたいという気持ちを一旦心に止め、それ以前に必要であろう一番大切な答えを求める。


「……そんな生易しいことじゃないっすよ。」

「望むところですわ。」

価値観というか本質的な性格の違いがここでも顕著に現れた二人の順序は真逆だった。

臆病な横島は先に前提条件を告げてダメならば現状維持でと願うが、かおりはどちらかと言えば勇敢な性格らしく気持ちさえ通じれば乗り越えられると思うのかもしれない。


「好きですよ。 でも俺にはもう一人忘れられないヒトが居るんです。 それはダメでしょ?」

二人の間にはほんの僅かな沈黙が支配したが先に折れたのはやはり横島である。

ただ横島はやはりかおりだけを愛することはまだ出来ない。

自分では前に進んだつもりだし進んで居るのだろうが、百パーセントかおりだけを想うことは未だに出来てないのが本音だ。


「それはどなたですの?」

「前に雪之丞と一緒に魔族に襲われたことあったでしょう? そのうちの一人です。 名前はルシオラ。」

好きだという言葉にかおりは喜びというにはあまりに大きな心の震えを感じるが、それはすぐに消え去ることになる。

自身の気持ちを告げた横島の答えがあまりに中途半端というかあり得ないモノだったのだから。

しかしそこでショックを受けることも引くこともなかったのは彼女の強さの証であろうか。

かおりは冷静に横島の忘れられないヒトを尋ねた。


「……魔族ですの? それで彼女は今何処に? 魔界ですか?」

やはり横島の答えは予想外だったのか流石に驚きに満ちた表情になるが、同時に妙神山での違和感の理由も分かった気がする。

そして自分の恋敵は今どうしてるのか、それは自然と出た疑問だった。


「死んだんっすよ。 俺を助ける為に。」

その瞬間、かおりはまるで時が止まったかのように二人の間の全てが止まったような気がした。

頭が真っ白と言っていいのか分からないが言葉は理解できても頭が着いてこないような、そんな感覚は始めてである。


「そん時にちょっと問題がありましてね。 ルシオラは魂が足りなくて現状のままだと転生出来ないんです。 唯一転生出来る方法は俺の子供への転生らしくって。 だから、すいません。」

いつの間にか観覧車は一周回り終えていた。

横島が簡単にルシオラのことを説明し終えた時にちょうど二人は観覧車を降りる。

吹き抜ける風の冷たさと周りの楽しく賑やかな声が遠く感じるほど二人は別世界に居た。

最後に一言謝って以降横島は何も言わなくなり、かおりもまた頭と気持ちの整理が出来ないでいる。

信じられないとまでは言わないがどう受け止めていいか分からぬほど複雑な心境だった。




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