その二

ゆっくりとゆっくりと上昇していくゴンドラから見える景色はデジャヴーランドばかりか遠くは海まで見えていた。

下を見れば混み合うデジャヴーランド内が見えるし、何のアトラクションか施設かは分からないが楽しげなクリスマスソングが聞こえてくる。


「好きなんです。」

しかしゴンドラの中はそんな景色や音楽とは別世界のようであり呼吸をする息づかいすら聞こえてくるようだった。

デジャヴーランドの観覧車は日本最大級の大きさと言われていて一周十六分もかかる密室になる。

横島は突然のかおりの行動にどうしていいか分からず固まったままであるが、そんな横島にかおりは意を決して一斉一代の勝負に出ていた。


「いい加減に分かって下さい。」

ここ数ヶ月で横島とかおりの関係は随分変わったし、十二月に入ってからも横島の風邪などがあり二人の距離は格段に近付いている。

無論おキヌや令子や小鳩との関係や、おキヌの不自然な態度に小竜姫に聞きたいかと問い掛けられた過去。

かおりには未だによく分からないことが多くあったが、それを理解してもかおりは現状維持で満足出来なくなっていた。

それに両親のけんかをきっかけに闘竜寺を出たかおりは、これからは自らの意志で霊能力やGSという仕事と向き合わねばならない。

修行先に関しては六道家に頼めば見つかるかもしれないが今まで父の言葉のままに修行して来たのとは違い、これからは自ら考え進まねばならないのだがはっきり言えば不安なのである。

そんな積み重なった想いと環境の変化にクリスマスイブという日と観覧車という密室が揃った結果、自ら最後の一歩を踏み出していた。



「……正気っすか? なんで俺なんかを。」

「正気ですし、好きな気持ちに理由が必要ですか?」

この時、観覧車の中は外と変わらぬ気温なため肌寒く吐く息も白くなっていた。

寄り添うように座る二人は互いに相手の温もりを感じつつも、顔を見ないで話せるこの状況がまだ話しやすい環境だったのかもしれない。

現に固まったまま無言だった横島も意外にも大きなリアクションを取るようなこともなく、緊張感から少し震えたような声で正気なのかと確認を取ることが出来ている。

流石に横島もこの状況で冗談を言うとは思わないし、信じられなかったので今まではあり得ないと考えようとしていたが最近のかおりとの関係が友達を越えつつあるのはいくらなんでも薄々感じてはいたのだ。


「いや、そういう訳じゃあ。 ただその、付き合うとか言うなら、俺はその前に話さなきゃならないことがありまして。 それを聞いて弓さんがいいと言うなら……。」

そして横島がようやく答えらしきことを口にした時には観覧車はいつの間にか頂上まで間近に迫っていた。

互いに惹かれていたのは明らかであり横島もまた強く美しくそしてちょっと弱さがあるかおりに惹かれていた。

いつの間にか特別な女性が出来たようで密かに優越感や満足感があったのも確かだろうが、本気になればなるほど過去の自分と重ね合わせブレーキとなっている。

正直横島は不安で逃げ出したくなっていたが観覧車ではそれも出来ずに、かおりと向き合う為に横島は自分の口でルシオラのことを語らねばならないと覚悟を決めるしかなかった。



21/100ページ
スキ