その二

「朝から混んでるんだな。」

さて電車で移動していた横島とかおりがデジャヴーランドに到着したのは開園十分前だったが、すでに入り口には長蛇の列が出来ている。

かおりは瞳を輝かせて楽しみで仕方ないといった表情だが、横島は列に並ぶ人々をなんとなく眺めていた。

男女比でいえば幾分女性の割合が多いもののカップルや家族連れが多く見られて、ちょうど学校が冬休みに入ったことで未成年が多い。


「どいつもこいつもイチャイチャしやがって。」

「……その、横島さん? その台詞は客観的に見て横島さんには言われたくないと思いますわ。」

周りはみんな楽しげで横島はイチャついてるカップルに視線が止まるとつい小声ながら嫉妬するような文句を口にしてしまうが、逆に周りからはそれを貴様が言うのかという視線が横島に集まることになる。

横島とすれば長年のモテない習慣でつい口を滑らせてしまっただけだが、先程から横島も十分周りからは同じようにイチャついてるように見えていた。

ここ最近でいろいろあり二人の距離は確実に縮まっているので自然と二人の一緒に居る時の距離が近く、肌と肌がふれ合う距離である。

しかも先程からはかおりが横島の手を握ると横島も離すことなく握っていたので尚更だ。


「いや、なんかつい習慣で……。」

ただそんな嫉妬を丸出しにする横島にかおりは何故か笑っていて仕方ない人だと言いたげで軽く呆れるくらいだった。

少し前ならば隣に自分が居るのにと不快に思ったかもしれないが、横島がそういう人なのはここ数ヵ月でよく理解している。

ぶっちゃけ手を握っても過剰な反応をしなくなっただけ成長したなとちょっと嬉しく感じるのだから、彼女は相変わらず重傷だった。


「キャー! マッキーキャットですわ!」

その後開園と共に列を作っていた人達が待ちきれないと言わんばかりに園内に入場していくが、かおりは予想以上にデジャヴーランドが好きらしくマッキーキャットを見つけると駆け寄り抱き付いている。


「こんにちは! ぼくマッキーキャット。」

「こんにちは……。」

しかし横島は大分前に一度だけ来た時に酷い目にあったので警戒するように恐る恐る近寄るも、流石に前回のようなことはなく心底ホッとした表情をした。

一方のかおりはせっかくだからと一緒に写真を撮ってもらったりと早くもデジャヴーランドを満喫しており、若干失礼な話だが普段の彼女からは想像も出来ないほどの子供っぽさがある。


「私がデジャヴーランドが好きなのは変ですか!?」

「そんなこと言ってないっすよ。 可愛い趣味じゃないっすか。」

一通りマッキーキャットを満喫したかおりはちょっと冷静になったのか、横島の微妙な態度に引かれたかと狼狽え顔を赤らめて横島に詰め寄るが横島は別にそんなこと考えてないので可愛い趣味だと口にして余計にかおりの顔を真っ赤にしてしまう。

実は以前に雪之丞がデジャヴーランドを子供だましだと酷評してデジャヴーランド好きなかおりと喧嘩したことがあり、かおりはそれが若干トラウマとなっていた。


16/100ページ
スキ