その二

「闘竜寺の弓さんもなのね~。 そう言えば連絡が来てたわ~。」

同じ日六道女学院はすでに冬休みに入っていたが、学校には部活や霊能の修行をする生徒がちらほらと来ている。

そんな学校にこの日六道冥子の母であり理事長である冥菜が訪れていて鬼道からかおりの件が伝えられていた。


「その手の相談はよく来るのよね~。」

ただ冥菜の反応はまたかと言いたげな表情で驚きというよりは少し呆れた表情をしている。

男尊女卑の日本のオカルト業界を牛耳るのが女性である冥菜であることに反発する者は伝統や歴史ある家の者ほど多いが、それ以上に同じ女性から頼られることが多い。

実は伝統や歴史ある家にも当然女性は居るが、そんな女性達の中には男尊女卑の家や業界に嫌気がさし密かに六道家の支持をしてくれる人が意外に多かった。

ちなみに相談事で一番多いのは見合いを断りたいという相談で次いで離婚したいという相談が多いが、セクハラやパワハラ紛いの相談もあってもう弁護士かというほど多様な相談がある。

正直冥菜としては面倒どころの話ではないのだが、女性支持が圧倒的なのが六道家の力の源泉の一つでもあるので無下には出来ないという事情もあった。


「闘竜寺はちょっと厄介ね~。」

ただまあ冥菜も別に力で物事を解決してる訳ではなく、オカルト業界の各派閥に居る支持者や協力者に根回しをして穏便に見合いを破談にしたり離婚に漕ぎ着けたりしている。

流石に当人が嫌がってるのに無理強いするのは良くないと考える女性は多く、メンツを潰さぬように動いてくれる女性が何人も居るらしい。

まあ男性達の中にはそんな冥菜の行動を余計な口出しだと内心では苦々しく思ってる者も多いが、女性達は行きすぎた男尊女卑の慣例は良くないと考えてる者がかなり居る。

結果として冥菜はオカルト業界の近代化を女性達の力と繋がりで進めていたのだ。


「こういう言い方は失礼かもしれへんけど、世の中を理解してないという点は家の親父といい勝負な気がしますわ。」

「あそこは先代の奥さんが凄かったのよ~。 夫には霊能と修行に専念して欲しいって言って、他は全部一人で取り仕切ってたらしいから~。 ただ今の住職はそれを当たり前だと思ってるそうだから~。 今で言うマザコンの気でもあるのかもしれないわ~。」

かおりの父が素晴らしい住職だとの評判は鬼道も当然知っていたが、先日かおりから直接聞いた話は自身の父親と重なる部分があると見えてしまったらしい。

一言で言えば極端で世間知らずなのだが、冥菜はその原因が先代の妻であるかおりの祖母なのだと語る。

闘竜寺の先代は夫婦揃って有名だったらしく、戦後間もなくの頃に結婚して以来高度経済成長やバブル期など激動の時代を乗り越え闘竜寺を守り抜いた立役者が祖母だったようだ。

実際伝統ある古き家もバブルの時代には余計な投資や副業に勤しみ失敗した例は数知れない。

長い間オカルト業界しか知らない霊能者が突然バブルの煽りを受けて大金を手にして人生を狂わせたなんて話はまあよくあることだった。

祖母はそんなオカルト業界に流されずに堅実に闘竜寺を守り抜いたのだが、祖父はそれが祖母だから出来たことと理解して感謝していたものの父は当たり前だと思ってると業界の一部では評判が芳しくないらしい。


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