その二

「もうすぐクリスマスですわね。」

その後は普段あまり来る機会のない横浜の街をぶらつく横島とかおりであるが、冬の夕暮れは早く街はクリスマスのイルミネーションやツリーが色鮮やかに人々を照らしていた。

この日はせっかくなので夕食も食べて帰ろうと言うことになっているので何を食べようかと話ながら歩いている二人だが、ふとイルミネーションが綺麗なレストランが目に入り立ち止まり店先にあるメニューを見始める。


「クリスマスかぁ。」

全く知らないレストランだったが店内も結構混雑していたこととイルミネーションに誘われるように夕食はこのレストランで食べようと決めるも、店内は若いカップルが多く横島とかおりもまた少し意識してしまう。

共にイルミネーションの影響かなんとなくクリスマスデートでもしている気分になるが、基本的に自分というモノが何より信じられない横島はこうした幸せな時間が長く続くとは思えないようで少し自虐的な笑みを浮かべた。


「デジャヴーランドではクリスマスのイベントをしてるとか。 一度でいいですから行ってみたいですわ。」

この日はクリスマスまで残り一週間ほどだが、お互いに意識はするが約束まではしてないのが現状である。

元々先週の風邪までは友達と変わらない程度の関係と距離だったので、流石にクリスマスに会う約束をするのは横島もかおりも勇気がいることだった。

ただやはり積極的なのはかおりで時々クリスマスの話題を話したり予定がないことをアピールしたりするが、ヘタレで臆病な横島は誘う事が出来ないでいる。


「……誘ってくれないのですか?」

「いいんっすか? 俺なんかとで。 クリスマスっすよ?」

その結果最終的に痺れを切らしたのはかおりで若干不満げな表情で催促してしまうと、横島は今更聞かなくても分かるだろうと言うようなことを確認するように問いかけてしまう。

それはあまりに初歩的な会話で今まで何度も会ってデートもしている相手に言うべき言葉ではなく、かおりは横島がまだそんな段階で悩み止まっていた事実に流石に悲しくなるような気がした。


「弓さんさえ良ければ俺は大歓迎っすよ。 じゃあイブの日はデジャヴーランドに行きましょうか。」

ただ流石に横島もかおりが誘って欲しい様子なのは考えなくても理解しており、当然ながらそれが嫌なはずもなく心底嬉しいのが本音だった。

ならば気が変わらないうちにと約束をする横島には男らしさなどなくかおりは嬉しさ半分不満半分であるが、それでも約束を取り付けることが出来て良かったと思うことにする。

目の前の男は決してモテない訳ではないので中途半端なプライドで誰かに先を越されでもしたらと考えるとほっとしたのが本音だろう。


「いや~、流石にクリスマスは俺と一緒なんて冗談じゃないって言われるかななんて思ってて。」

「私はそんなこと一言も言ってませんわ。 そもそもこれだけ会ってるんですから誘ってくれるのが礼儀ではなくて?」

なおクリスマスの約束を交わしてほっとしたのはかおりばかりではなく横島も同じだったようで、拒否されるのが怖かったとつい本音を暴露するもかおりは女心が分からぬ横島に軽くため息をこぼす。

加えて普段は平気で軽口を叩く癖に肝心な時に臆病になることには少し不満であるが、そんな弱さや臆病さを含めて隣で支えてあげたいと思う自分も居るとかおりは自覚している。

何はなくともあれ横島とかおりは互いにクリスマスを楽しみにしつつ、プレゼントはどうしようかなどいろいろ悩むことになる。
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