その一

それは秋が深まる九月中旬の一本の電話から始まる物語。


「横島頼む! すぐに来てくれ!!」

この日久しぶりの休日らしい休日を過ごしていた、横島の元にかかって来た一本の電話の相手は伊達雪之丞である。

時々ふらりとやって来ては貴重な食料を食べていく雪之丞の電話に横島は適当な理由を付けて断ろうと思う。


「悪いが……」

「お前好みの美人を紹介するから今すぐ……」

「任せとけ!!」

心底めんどくさそうに断ろうとした横島だが雪之丞も横島が素直に来るとは思ってないらしく、美人を紹介するからと言うと話を聞く前に横島はアパートを飛び出して雪之丞に指定された場所に行った。


「えーと……、後は若い者に任せてっと」

待ち合わせ場所に到着した横島はその場の空気に引き攣った表情になると、まるでお見合いの仲人のような口調で逃げ出そうとする。


「待ってくれ! 友達だろ!!」

速攻で逃げ出そうとする横島だが、今にも死にそうなほど顔色が悪い雪之丞に縋り付くように止められてしまう。

待ち合わせ場所はファーストフードだったのだが、その場には雪之丞以外にもう二人ほど居た。

一人は弓かおりで横島も知る人物だったが、もう一人は横島も知らない二十歳前後の美人だった。

まあそれだけならば横島も喜んだかもしれないが、問題は二人が殺気を飛ばし睨み合ってることだろう。

しかも横島の知らない美人は微妙にお腹が膨らんでいる。


「やかましいわ! なんで俺がお前の痴話喧嘩に関わらなきゃならんのだ!!」

「頼む、お前しか居ないんだよ!」

百聞は一見にしかずという言葉もあるように、この状況は聞くまでもなかった。

冗談じゃないと横島は雪之丞を振りほどき逃げ出そうとするのだが……。


「横島さん、座って下さい」

それは素晴らしい笑顔でニッコリと静かに座るようにと告げたかおりの言葉に、横島は返事をする暇もなく座ることになる。


(雪之丞のやつ)

外は気持ちいい秋晴れにも関わらず、ファーストフード内はまるで真冬のような冷たい空気が流れていた。

横島や雪之丞達が座るテーブルとその周辺だけは誰も座らずに、誰一人雪之丞達を見ようともしない。

座る位置については雪之丞の隣に見知らぬ美人が座り、横島は何故かかおりの隣である。


「そうだ、おキヌちゃんも呼ぼうか? こういう時は……」

「結構です。 氷室さんには絶対に言わないで下さい」

あまりの重苦しい空気に横島はおキヌに助けを呼ぼうと考えるが、これまた素晴らしい笑顔のかおりに拒否された。

結局息が詰まるような沈黙が続くが、それを破ったのもまたかおりだった。


「これ以上は時間の無駄ですわね。 二度と私の前に現れないで下さい」

彼女は雪之丞に凍りつくような冷たい視線を送ると、決別の言葉を告げて店を出て行ってしまう。


「ちょっ……、雪之丞お前追わなくていいのか!?」

そのあまりに急な展開に横島はかおりを止めようとするも出来ず、雪之丞に後を追うように告げるが雪之丞は困ったようにしてるばかりである。


「いや……、そのな? 彼女との間に子供がさ……」

言いにくそうに追えない訳を告げる雪之丞に、横島はどうしていいか分からない。



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