「お久し振りです。 こちらに竜神族の小竜姫様はおられますか？」

「貴方は！？ えーと誰でしたっけ？」

メドーサとね戦いに向けて動き出した美神事務所であるが、そんなこの日事務所には懐かしい人物が訪れていた。

おキヌは彼の姿を見るなり驚くも、今一つ思い出せなかったのかボケをかましてしまい訪問者をズッコケさせる。


「あら、韋駄天ですね。」

「ああ！ 横島さんに取り憑いた！ えーとヨコシマンさんでしたっけ？」

「八兵衛です！！」

まるでお約束のような展開に何事かと小竜姫も事務所の入り口まで出てくるも、おキヌは韋駄天の名前を聞いてもボケをかます。

流石に八兵衛も悲しくなったのかムキになるもおキヌにしてみると相変わらず変な神様だとしか感じない。


「貴方、横島さんに取り憑いたんですか！？」

「いえ、それはやむにやまれぬ事情が。 そうそうそんな話より小竜姫様にお届け物です。　ああ判子ください。」

しかしおキヌから横島に取り憑いたと聞いた小竜姫が少し怒りの表情を見せると八兵衛は明らかに狼狽えてしまい露骨に話を逸らすように本来の目的を口にした。

どうやら八兵衛は小竜姫に届け物に来たらしい。


「私忙しいので。　横島君によろしく！」

少し怒りの表情の小竜姫から判子を貰うと八兵衛は逃げるように帰っていくとおキヌと小竜姫は八兵衛が持ってきた箱に興味が移る。


「珍しい箱ですね。 中身は大根でしょうか？」

「あら、天龍童子殿下からですね。」

八兵衛が持ってきた箱は細長い箱でおキヌは大根を入れるのにちょうどいいと言うも流石に神界から大根は来ない。

小竜姫は箱に貼られている差出人が書かれた伝票を見るとそれは天龍童子からの依頼で運ばれた物らしく、小竜姫は何を送ってきたんだと訝しげに開けるとそこには一本の神剣が入っている。


「新しい神剣頼んだの？」

「いえ、神剣は本来は生涯に一度しか頂けぬ物ですから。」

それは真新しい神剣であり神々しい光を微かに放つほどで事務所で事務所でデスクワークをしていた令子も思わず目を見開く物だった。


「これ……横島さんに殿下が送ってきた物ですね。」

「なんであのガキんちょが？」

「横島さんも忘れてるでしょうが横島さん殿下の家来になりましたから。 どうやらヒャクメが神界に行った時に殿下に私の現状を教えたみたいで。 横島さんが曲がりなりにも竜気を使いはじめて私の恋人となったならこの神剣で修行して立派な竜神になるようにと……。」

突然何の前触れもなく送られてきた神剣は天龍童子から横島に下賜された物らしい。

小竜姫自身も忘れていたが横島は口約束でも天龍童子の家来になってしまっていて特に放逐もされてないので天龍童子は家来のままのつもりらしい。

子供とはいえ神族の約束は契約に等しくかつて同じく家来にしたイームとヤームという竜族の二人は今も天龍童子の計らいで神界に帰参を許されて家来になっている。

仮に横島がただの人間ならば天龍童子もそのうち忘れたかもしれないが、流石に竜神族の間では小竜姫が人間と付き合いだした話は有名でありヒャクメが小竜姫の立場を悪くしないようにと横島が早くも竜気を扱い始めたと説明したことで天龍童子が気を聞かせて家来に神剣を下賜したらしい。

天龍童子の感覚では横島が小竜姫に相応しい存在になるために修行してるように思えたのだろうし、竜神の伴侶となり竜神になろうと努力を始めたならば竜神として相応しい神剣をやろうと勝手に盛り上がったようだった。