嵐を呼ぶかもしれない男

「厄珍辺りならなんか噂くらい知ってるかしら?」

一方令子は久々に事務所でゆっくりとおキヌと顔を合わせてお茶を飲んでいたが、事件の厄介さに露骨に面倒そうな表情をする。

金にならないのがまず第一にあるが同時にグレーゾーンの多いオカルト絡みになると事件は途端に難しくなるのを彼女は知っていた。

仮に実行犯と開発者を見つけても実行犯はともかく開発者はせいぜい銃刀法違反なんかの軽犯罪で逃げれる可能性も十分あり、科学ではないオカルト絡みの裁判は立証が難しく簡単ではない。

ただこの手のヤバそうな話はオカルト裏社会にも精通する厄珍が意外に詳しいので聞くならば厄珍だとも思うが、ある意味飯の種を簡単に明かす人物ではないので情報を聞き出すのも一苦労になる。


「厄珍堂店主厄珍か? いろいろグレーゾーンの噂がある人物だが……。」

「貴重なオカルトアイテムを手に入れる力は本物なのよ。 正規品だけじゃないけど。 叩けば埃くらいは出るけど割りに合わない犯罪に手を貸すタイプでもない。 厄珍自体は無関係でしょうね。」

西条も一通り説明が終わり令子と共にお茶で一息つくも、海外に居た西条も厄珍の名前は知ってるらしく少し考える仕草をする。

人間界どころか魔界の正規軍の横流し品まで時には扱う厄珍の胡散臭さは令子の比ではないが、善人でもないが悪人でもない小悪党という程度なので時々逮捕されてもすぐに釈放される人物だった。

困ったことに彼でなければ手に入らないような品物も時にはあり、誰も潰そうとしないことを読みきってる人物でもあるが。


「まあ捜査は警察に任せるしかないな。 オカルトGメンは海外製の証拠品の流通経路なんかを本部に調べてもらうのがせいぜいだ。」

しばらく考えた西条であるが設立して間もないオカルトGメンには荷が重い事件であり、同時にあまり目立って勝手な行動をすると警察の反感を買う可能性もある。

捜査に協力は惜しまないが現段階では無理をして動くほどの事件でもなく、また動いて今後の警察との関係が悪化する方が問題だった。

日本の警察も無能ではないし今までオカルト絡みの事件も扱って来ただけに、ただでさえ忙しいオカルトGメンがこれ以上余計なことをするのは得策ではない。


「それでは小竜姫様に伊達君と横島君。 今回のご協力感謝します。 おかげでオカルトGメンが恥をかかずにすんだし、僕も命拾いしたよ。」

しばらく令子や小竜姫達と話をした西条は、最後の帰り際に小竜姫と横島と雪之丞を見て今回の一件のお礼を口にすると深々と頭を下げて帰っていく。

特に今回共に行動をした横島には苦笑いを浮かべながら命拾いしたと語り、西条に対するイメージが悪かった横島を驚かせる。


「ただ横島君。 君の力は少し人間には過ぎたるモノかもしれない。 十分に気を付けたまえ。」

「ああ。」

鳩が豆鉄砲を食らったという表現は少し古いかもしれないが西条は礼を口にすると驚く横島が少し面白かったのか、ニヤリと意味深な笑みを浮かべてダメだしとまではいかないが一言アドバイスを口にして帰って行った。

伊達に小竜姫に見込まれた訳ではないと西条は今回の事件でよく理解したが、同時にあまりに力と掛け離れた未熟さも垣間見ている。

その力を願わくば正しく使って欲しいと願いつつ西条は帰っていく。

この世界では令子を取り合うような確執がない分、横島と西条の関係も変化し始めていた。


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