嵐を呼ぶかもしれない男

その後は慎重に進む西条と横島だが会話がないこともある重苦しい空気が二人の間で続く。

横島はやはり初対面の印象の悪さから敬語など使うはずもなく呼び捨てだし、そうすると年下の見習いに舐められてるようで西条も些か不愉快になるのだ。


「これって、スライムか?」

「こんなもの報告になかったぞ。」

ただお互い状況を弁えてケンカはしないだけの分別がある中で弱い悪霊が次々と寄って来るのを除霊しながら進むものの、途中から以前横島もホテルで除霊したスライムが足の踏み場もないほど大量発生している。


「心眼。 人の気配は?」

「先に行ったようだ。 スピードからして走っているのだろう。」

「一部を吸引札で確保して後は退治しよう。 しかし……。」

出来れば先に居る人らしき気配を追いたいが何があるか分からぬ以上は慎重に進まねばならないし、何より歩く隙間もないスライムの群れをどうやって乗り越えたのかという疑問が二人には残ってしまう。

しかもこのスライムはたいした手間ではないが完全に焼き尽くさねば後々厄介なのでここで退治せねばならずに無駄な時間をロスすることになる。


「なあ、さっきの落盤って偶然か?」

「おそらく偶然ではないだろう。 状況的に悪霊が破壊したか君の感じた気配の存在が人為的に破壊したか。 ただこの辺りの悪霊に頑丈なトンネルを破壊する力量はない。 とすると答えは一つだろう。」

幸いなことに横島がオカルトGメンの荷物を持っていたことで二人はすぐにお札でスライムを焼き尽くすが、横島は少し嫌な予感というかいつもの除霊と違うのではと本能的に感じていた。

そして西条もまたこれはただの霊障ではないと考えているようで後で何かの手がかりになるかと大量発生しているスライムを一部確保したらしい。


「でも変だな。」

「何がだ?」

「走って逃げてるってことは壁抜けとか瞬間移動出来ないんだろ? 何処に行く気だ? 地上は警察が封鎖してるしそんなこともわからん妖怪か魔族か?」

「……しまった! 急ぐぞ横島君!」

スライムを退治し終えると二人は改めて進むが、横島はふと逃げている何者かは何を考え何処に行こうとしてるのかという素朴な疑問が浮かぶ。


「ちょっ、どこ行くんだ?」

「この先で新設予定の地下鉄の駅が建設中なんだ! そこの地上への入り口は警察が民間人が入り込まぬように封鎖してるが同じ地下にある地下街に繋がる通路は封鎖してない。 そのまま地下を移動すれば警察が封鎖してる範囲から出てしまう可能性がある!」

横島とすればそれほど深い考えなどなく何が目的なのか、そして正体はどんな妖怪なのかと考えただけだが西条は横島の言葉から何者かが逃走出来るルートがあることに気付き逃がしてはならないと走り出した。

そもそも地上の警察は地下に民間人が入り込まぬために入り口を封鎖してるのであって地下に居る何者かを閉じ込める為ではない。

それにここらの地下は地下鉄や地下街などで繋がっているので、警察が封鎖してる範囲から地下を移動するだけで出られる可能性があるらしい。

一応近隣の地下街や地下にフロアがあるビルには避難させたが地下街から別の地下鉄に行くことも可能で避難して無人の地下鉄の路線を走って逃げることは現実的にあり得ることだった。



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