嵐を呼ぶかもしれない男

「あっ、美神さん。 おかえりなさい!」

「ただいま、おキヌちゃん。 ってそちらは確か……。」

そして令子がオカルトGメン出向初日に事務所に戻って来たのは夜の八時を過ぎた頃だった。

恐らく大丈夫だろうと思っては居たものの少々心配だったようで自宅へ帰る前に寄ったらしい。


「ちゃんと話すのは初めましてですね。 私はヒャクメ。 神族の調査官件美神事務所の所長代理なのね。」

「神族の調査官がなんでうちの所長代理を……。」

「彼女は私の友人なのですよ。 あいにく私は細かいお金の話は今一つ苦手なので。 どうせなら横島さん達に稼がせてあげたいですから。」

だが流石の令子もまさか神族が増えるとは予想してなかったようで唖然としてしまい、加えて初日から神族の調査官なんて存在まで呼び込んだ小竜姫に感心していいのか呆れていいのか複雑な心境だった。

正直現在ある依頼を受けてくれるだけでいいと考えていて、それ以外は来たら適当に判断してやれるなら受けてもいいと軽く考えていたのだ。

まさか小竜姫が稼ぐ気になるとは思いもしなかったのである。


「……まあ、赤字になんないなら好きにしていいわ。」

「それでオカルトGメンとやらはどうだったんです?」

一ヶ月もすれば小竜姫の事務所になってるのではと少し不安になるものの、令子自身は自分の実力に自信もあるし横島と雪之丞の扱いさえ間違えなければ小竜姫が裏切るとは思えないので赤字にならないなら好きにさせることにした。


「それがねぇ。 仕事が忙しいのは仕方ないにしても、西条さんが社会や人の為に働くことにビックリするほど情熱を持っててね。」

「立派な方じゃないですか。 美神さんとは対極にいる気もしますけど。」

「そこなのよ。 いい人だし頼れるんだけど……。」

あいにく横島と雪之丞は二人で簡単な除霊に行っていて、今は事務所におキヌとヒャクメと小竜姫しか居なく女性だけなのが話しやすかったのか令子は一日の感想と愚痴を溢し始める。

当然発足したばかりのオカルトGメンなのでマスコミなどの注目を集めていて、行く先全てにマスコミに付きまとわれた令子は気疲れしていた。

ちなみにオカルトGメンは当面は組織の規模の関係から一般の霊障相談などは受け付けてなく、当面は国や自治体などの公的機関からの依頼のみを受けることになっている。

西条と令子は公的機関から依頼を受けて出動することになり事務所には一般事務の事務員を雇い置いたらしいが、西条は明日以降はオカルトGメン設立に伴う各方面との調整や話し合いもこなさなければならないので更に忙しくなるらしい。

令子とすればある程度忙しいのは想定していたが、マスコミに付きまとわれた気疲れと西条との価値観の違いにやはり少し戸惑っていた。


「あまり焦らないことですよ。 戸惑ってるのは相手も同じでしょう。 人の成長は早いですからね。 離れていた時を埋めるには相応の時が必要でしょう。」

一方小竜姫は戸惑う令子の姿にふと未来の令子を思い出していた。

小竜姫自身も決して器用とは言いがたいが、もしかすると令子が一番不器用なのではとも思うことがある。

この時代に来て横島を半ば強引に奪ってしまった負い目もある小竜姫は、勝手なことだと理解しつつ令子にも未来よりもいい形で幸せをつかんで欲しいと心から願っていた。



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