母からの伝言

「今日はここか?」

「建物への被害は厳禁のようですね。 慎重に行ってください。」

ハーピーの一件があって以降も小竜姫達の生活にあまり変化はなかった。

横島は日中は学校に行き雪之丞は午後から出勤して修行やGSの勉強をしていて、小竜姫は午前中は家事をして午後には同じく出勤して雪之丞に修行をつけたり仕事を手伝ったりしている。

横島と雪之丞の収入が完全に歩合になったことで二人は週に二件から三件ほどの除霊をやっていたが、令子は最初の数回着いてきて見ていたがそれ以降は来てなく以後は小竜姫の指導のもと横島と雪之丞だけで除霊していた。


「横島さんはやはりまだ自力ではコントロールしきれませんか。」

ただ横島の竜装術は少しばかり欠点も浮かび出ていて横島だけで竜装術を使うと竜気を垂れ流し状態になってしまい、除霊する前に悪霊が逃げ出す騒ぎになったことが一度ある。

結局現状では心眼が竜気をコントロールし抑えることでなんとか使えているが、弱い悪霊が相手ではオーバースペック以外の何物でもなかった。


「出来れば竜爪のみで使えるようになる必要がありますね。」

そして未来の栄光の手に変わる横島の武器といえる竜爪の籠手については小竜姫が竜爪と呼んでいるのがそのまま名前となりつつあるが、これも何故か竜装術を使わねば使えぬ状態でありあまりコストパフォーマンスが良くない。

本来ならば全身の竜神化より部分的に竜気を用いる技の方が難易度としては低いはずなのだが、横島という男は一度コツを掴むと習得が早いが基本がまだ未熟なので上手く使い分けが出来ないでいる。

まあGS試験からまだ一月も経ってないので出来ないで当然と言えば当然だったが。


「行くぜ!」

「あんまり焦んなって。」

しかしハーピーの一件以降は横島の除霊に向き合う姿勢に変化が出てきていて、少なくとも普段の仕事では泣き言を言うことがほとんどなくなっていた。

無論まだ怯えた様子ではあるが、横島なりに除霊と仕事に前向きに取り組み出したことで令子やおキヌを驚かせている。

一つはやはり小竜姫の為にという想いがあるし、もう一つは横島と小竜姫の生活費は最初に小竜姫が妙神山から小判を数枚持参した以降は収入はなく、全て横島が出しているので自分が小竜姫の生活をも支えているとの自覚が僅かながら生まれていることも影響しているのだろう。


「頑張って下さい。 私はここで待ってますから。」

雪之丞を味方に引き込んだことも横島にいい影響を与えていて、小竜姫や令子のような抜きん出た存在が居ると自然に頼ってしまいがちな横島も雪之丞と組ませることで小竜姫を抜きにして除霊をさせることが早くも可能となっていた。

日に日に頼もしくなる横島に小竜姫は笑顔で除霊に送り出すとこれから先のことをしばし考え始める。

すでに未来の記憶は遠い過去となったが、横島ならば例えどんな事態になっても何とかしてくれると思える気がした。

そのまま小竜姫は気持ちのいい風に吹かれながらこれから先の事に対して対策を考えつつ、二人の除霊が終わるのを待つことになる。



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