母からの伝言

「令子、この方は?」

「妙神山の小竜姫様よ。 今訳あってうちにいるの。」

そのまま母と再会を喜ぶ二人の令子であったが、母である美智恵は雷雲が去るまであまり時間がないこともあり名残惜しそうにしつつ後から来て自分の存在に気付いていた小竜姫に視線を向ける。


「娘が大変お世話になりました。」

「かまいませんよ。 ただ時間移動に関しては神族としてはあまり好ましく思えません。 貴女の厳しい立場も理解しますので今回は私の胸に納めておきますが。 貴女がすべきことは時を越えることではなく同じ時を生きる人と協力し生きることだと思います。 今後は懸命な判断をすることを望みます。」

しかしただ者ではないと感じていたがまさか小竜姫だとは思わなかったらしく驚くも、幼い我が子が世話になった事実は変わらなく深々と頭を下げて礼を言う。

小竜姫はそんな美智恵に対してほんの一瞬悩むものの神族としても個人としても一言釘を刺さずには居られなかった。

決して美智恵のことをどうこう言える立場でないのは小竜姫自身も重々理解しているが、美智恵のやり方と考え方はあまりに危険で容認出来ることではない。

もちろん美智恵も被害者と言えるし現段階では深く追求する気はないが、小竜姫はふと彼女の時間移動もまたアシュタロスの反乱が起きるきっかけの一つではないのかと思う。

平安京においてメフィストが魂の結晶を盗んだことがアシュタロスの反乱の原因の一つであるものの、あの場に令子や横島やヒャクメが過去へと行かなかったらどうなるのか?

もっと掘り下げれば美智恵が時間移動を乱発したことこそが魔族に令子の存在を発見させる一因になったことは明らかであり、あのアシュタロス戦を起こしてしまったのではないのかと考えてしまう。

所詮は卵が先か鳥が先かということであり意味がないということは小竜姫も理解しているが。


「余計な時間を取らせてごめんなさいね、美神さん。 私達は先に戻ってます。」

しかし全ての責任を美智恵に求めることはしないものの未来においても美智恵の時間移動には様々な問題と疑惑が残り、引いては横島と令子の関係の大きな障害として結局二人が結ばれぬままそれぞれ別の伴侶と生涯を終える原因となったのだ。


『私もママのこと信じられなかったのよ。』

小竜姫は未来の晩年になった令子から聞いたその一言が今でも忘れられなかった。

時間移動にて何を変えて何を変えなかったのか、それを美智恵は決して語らなかったというし誰も聞くことがなかったことで全ては永遠の謎として残ってしまっている。

このまま行けば他ならぬこの世界の令子が生涯苦しむのではと危惧していた。

最近にしては珍しいほど神族らしい姿に戸惑う令子に小竜姫は貴重な時間を使ったことを詫びて、横島達やおキヌを連れて一足先に雨が降りしきる中を事務所に戻っていく。

少しでも長くこの雨が続き親子の時間を持てることを願い、美智恵が時間移動などという禁断の力ではなく自分の時間で精一杯生きてくれることを願って。


12/22ページ
スキ