あの素晴らしい日々をもう一度

「綺麗ですね。」

「小竜姫様の方が綺麗っす!!」

それから数時間後の夜になるとあっさりと除霊を終えた一同は念のためこの日はホテルに泊まることにして、ホテルの最上階にあるレストランで食事をしていた。

ホテル自体は完全休業であったが、令子達の為にとレストラン側が食事まで用意してくれていたらしい。

実は急な休業だった為にこの日に使う食材などが入って来ていて無駄になるらしいので、ホテル側がどうせ捨てるならと令子達に提供することにしたなんて裏話もあるが。


「もう! そういうこと言うときは真面目に言って下さい。」

高級ホテルのレストランらしく気品ある雰囲気と横島など滅多にお目にかかれない料理の数々に加えて、都心の夜景が一望出来るとなれば令子はともかく小竜姫なんかはしばし見惚れるほどであった。

基本的に妙神山という山奥に括られた神であった小竜姫にとって、まさか自分がこんな場所に来るなど少し前ならば夢にも思わなかったであろうと思う。

そんな時つい綺麗と言葉を漏らした小竜姫に、横島はまるで歯の浮くような台詞を口走るがその手はテーブルの下で小竜姫のふとももを触っており台無しである。

しかも何処かスケベそうな表情まで浮かべるのだから、小竜姫としても返答に困るのだろう。


「貴方達、悪いけどそういうのは二人だけの場所でしてくれないかしら?」

ただしそれは小竜姫の中の心境であって、一緒に同じテーブルを囲む令子やおキヌや雪之丞からするとイチャついてるようにしか見えなかった。

まるで砂糖を吐きたくなるような甘い二人だけの世界を作り上げて、それを目の前で見せ付けられる側はたまったものじゃない。

令子は額に青筋を浮かべていておキヌですら面白くなさそうであり、雪之丞は若干羨ましげに見ている。


「うふふ、怒られちゃいましたね。」

もちろん横島も小竜姫も周りを無視してる訳ではないのだが、二人は暇さえあればイチャつくだけに周りに居る人は大変なのだろう。

仮にこれが小竜姫が相手でなければ令子もキレてるのかもしれないが、流石に小竜姫を相手にキレる訳にはいかないようだ。


「まったく、神様なんだからもうちょっと人目を気にして欲しいわ。」

小竜姫が美神事務所にやって来てすでに十日ほどになるが、意外なことに自由奔放な小竜姫を令子が諌めることが割と多くあった。

先程も令子は思っていたが、かつての厳格な小竜姫は最早存在しなく自由を満喫している。

結果として令子が頭を抱えて小竜姫を諌めたりフォローする側に回っているのだから、小竜姫と令子の立場は小竜姫の歴史と真逆と言っていいほど変化していた。


「神族なんて実像はみんな勝手なものですよ。 案外私のような下っぱの方が真面目なくらいですから。」

「そりゃそうかもしれないけど……。」

不機嫌そうな令子にビビったのか横島は幾分大人しくなるが、小竜姫は令子から神族らしくしろとでも受け取れるような言葉を聞いたことが可笑しく感じて笑ってしまう。

かつて令子の非常識さに振り回され頭を抱えていた自分がまさか令子を振り回す側に回るとは流石に小竜姫も思いもしなかったし、一緒に人間社会で仕事をするようになって気付いたが令子は思っていた以上に常識を弁えてもいる。

いろいろ不安もあった小竜姫であるが、令子とも上手くやっていけそうだなと最近は思っていた。



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