あの素晴らしい日々をもう一度

「随分面白いことを始めたようだな、小竜姫よ。」

さて横島を学校に送り出した小竜姫は身の回りの荷物を取りに妙神山に戻ったが、今一番会いたくない相手にさっそく会ってしまう。


「……老師様。 ご迷惑をお掛けしましたことは大変申し訳なく思っております。 ですが……、私は後戻りするつもりはありません。」

小竜姫が老師と呼ぶ相手は斉天大聖その人であり、小竜姫の師である以上隠し事など不可能であった。

自身の師を前に小竜姫は片膝をつき深く頭を下げて謝罪するも、自身の行動を変える気はないとはっきりと自分の意思を伝える。


「好きにするがいい。 ワシはここからじっくりお前の生きざまを見させてもらおう。」

この時小竜姫は斉天大聖もまた自分が何処から来たのか知っていると直感的に感じるが、お互いに多くを話すことはなく斉天大聖は一言だけ言葉を告げると妙神山の自室に引っ込んでしまった。

まあ元々斉天大聖は厳格な神族ではないので小竜姫も半ばこの展開は予想していたのだが。

ともかく小竜姫は最低限の身の回りの品の荷物を纏めると横島のアパートに戻ることになる。



「まさか小竜姫様が美神君のところにしばらく滞在なさるとは……。」

「本当に参っちゃうわ。 まさか嫌だとも言えないし。 今の小竜姫様だと下手に断るとこっちが困った時に平気で見捨てられそうな気がするのよね。」

一方お昼近くの頃になると唐巣の教会に令子の姿があった。

前日のGS試験後のことを説明して愚痴る令子であるが、唐巣は令子の事務所で大丈夫かと不安げだ。

以前までの小竜姫ならばまだ適当に誤魔化せる気がした令子であるが、GS試験でのメドーサへの強かなやり方を見て考えを変えている。


「君ねぇ。 口の聞き方に気を付けないと大変なことになるよ。」

「大丈夫よ。 相変わらず横島君が気に入ってるみたいだし、ウチに来た理由も多分横島君目当てだから。 横島君さえ一緒にしとけば機嫌いいもの。」

ただ令子はすでに小竜姫の新しいあしらい方を見つけたようで、小竜姫には横島さえ一緒にさせたら細かいことには文句を言わないと見抜いていた。

ぶっちゃけ時給255円の横島で小竜姫が釣れたのだから、令子からすると海老で鯛を釣るどころではない。

万が一小竜姫を怒らせても横島を上手く使えば問題ないと考えている。


「それで小竜姫様が言った裏切り者は見つかったの?」

「ああ、目星は着いたが証拠がね。 流石に幹部の自宅や事務所を強制捜査する訳にもいかないし。 具体的な処分まで持っていけるかも微妙だよ。」

「GS内部に疑心と不和が広がるわね、案外メドーサの狙いはこれだったのかもね。」

そのまま話は小竜姫から昨日のGS試験の後始末に移るが、結局メドーサのGS試験への介入は現段階では公表されないことになっていた。

雪之丞の証言もあり証拠は十分なのだが裏切り者の幹部の扱いに手間取っていることもあるし、悪戯にGS協会の信頼を下げることに協会が慎重だったことが原因である。

まあ陰念と勘九郎はGS協会から永久追放となるが、元々試験途中で逃げ出しただけに問題の扱いとしては小さいものになっていたのだ。

雪之丞は小竜姫が引き取ってしまったし、雪之丞達の元所属先の白龍会のメンツなんかも絡むため最後まで公表されないだろうと唐巣は語る。

結局メドーサは人間側に一定のダメージを与えたことで結果だけを見れば一方的な失敗とは言えなくなっていた。



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