「どうですか？」

「美味いっす！」

小竜姫に押しきられる形で当面一緒に住むことになった横島は主に自分の理性が不安であったが、それはそれとして小竜姫が夕食を作ると見てる方が気持ちいいほどガツガツと食べていた。

不安もあるが狭いアパートの部屋で美女と二人っきりという夢のようなシチュエーションに興奮しないはずはない。


「それにしても小竜姫様も災難っすね。 何処に居るかも分からないメドーサを捕まえなきゃダメなんっすよね？」

「建前上はそうなんですけどね。 別に宛もなく探し歩けという命令ではありませんし、そのうちまた向こうからちょっかいを出してくるまでゆっくり出来るんですよ。 期限がある命令ではありませんから。」

食事を食べ終えるとお茶を飲みながら小竜姫と小竜姫に課せられた新たな命令について話を始める横島ではあるが、相変わらずメドーサを捕まえる気があるのかないのか分からない小竜姫を不思議そうに眺める。


「なんか小竜姫様変わりましたね。」

「所詮私は下っ端神族ですからね。 自由にやらせてもらいますよ。 それに昔ある人に言われたんです。 一度きりの人生楽しく生きなきゃ損だって。」

横島の中での小竜姫はどうしても堅物というイメージがあったが、昨日からの小竜姫はそんなイメージと真逆と言っても良かった。

令子の試練の時や天龍童子の時とは明らかに違う小竜姫に横島はなんとなく変わったと言う言葉をかけるが、そんな横島に小竜姫は半ば開き直りとも取れる発言をしつつ少し昔を懐かしむように変わった訳を口にする。


「まあ、そりゃ楽しく生きなきゃ損でしょうけど。」

小竜姫が変わった訳が思っていた以上に俗っぽいことに横島は尤もだと思いつつも、なんとなくそれを誰が言ったのか気になり始める。

懐かしそうにしつつも何処か遠くを見るような小竜姫が気になるのだ。


「さあ、それよりも後片づけを済ませてお風呂に行きましょう。 手伝って下さい。」

なんとなく面白くなさそうな横島に小竜姫はクスッと笑ってしまうと、横島に後片づけを手伝わせて早めにお風呂に入るため銭湯に行くことにする。

まさか横島が並行未来の自分に焼きもちを焼くとは思わずつい笑ってしまったようだった。



その後一緒に銭湯に行き戻って来た二人だが、自分の布団と来客用の布団を敷くと横島は柄にもなく緊張した様子である。

隣を歩くだけで湯上がりのシャンプーの香りがもろに感じられて、いろんな期待と不安でいっぱいだったのだ。

銭湯から帰る途中も周囲をビクビク警戒したかと思えば、アパートに帰ってからも時折窓から外を見たり玄関の覗き穴から誰か来てないかと幾度も確認したりしたほどである。


「別にドッキリではありませんし、罠でもありませんよ。 だいたい何で私が体を張って横島さんを騙す必要があるんですか。」

時間が過ぎる事に挙動不審になる横島に小竜姫も最初は横島らしいとただ笑っていただけだが、流石に何度もされるとしつこく感じてこれがドッキリでも罠でもないことを何度も説明する羽目になっていた。


「いや、でもね。 って小竜姫様！？」

結局いくら話しても伝わらないと感じたのか小竜姫は突然部屋の電気を消して部屋を真っ暗にすると、慌てふためく横島を物理的に理解させることにする。

本当はもうちょっとムードが欲しかった小竜姫であるが、横島には強引なくらいでなくては無理だと理解したらしい。


「小竜姫様！？ ぼっ僕達もう少しお互いのこと理解するべきだと思うんです！ こっ交換日記とか、ぶっ文通とか……。」

それは横島にとって本当に突然のことで、何の心構えもなく訪れた至福の瞬間に横島はまるで壊れた人形のように訳のわからぬことを口走り始めていた。