束の間の日常

アン・ヘルシングの一件は小竜姫の報告から霊障として認められて、無事釈放されていた。

身元保証人となった唐巣はあちこちに謝罪行脚していて、破壊した学校には彼女の祖父のヘルシング教授が賠償金を払いなんとか収めている。


「ピートお兄様!」

「げっ!!」

この日横島は学校帰りに偶然一緒になったピートと帰路に着いていたが、また吸血鬼退治の強化服を着たアン・ヘルシングが町中を駆けてくる。


「あっ、彼女はもう大丈夫ですよ。」

その姿に露骨に警戒する横島だが、ピートが少し気まずそうに横島に事情を説明し始める。

どうもしばらく彼女は唐巣の教会で修行をするらしい。

血筋からか才能はあるようだが、両親を早くに亡くしていて祖父も多忙だったこともあり、まともな修行をしてないのも初代ヘルシング教授の怨霊に憑りつかれた原因だった。

どういう経緯かはピートも知らないらしいが、唐巣が当面は預かることで決まったらしい。


「ふーん。」

よく見るとアンの背後には疲れた表情の唐巣がいる。

横島はなんとなく唐巣がまた貧乏くじを引いた気がしたが、まあ自分に害がないならば横島としては問題ないと割り切っていた。

ピートがモテるのは面白くないが、アン自体は小竜姫の力を妖魔と言った件がなんとなく残っていてあんまり関わりたくはない。


「まあ、いいや。俺はバイトだから。」

「ああ、横島君。ちょうどよかった。」

アン自体も横島にあんまり興味がないようで、横島には早々のバイトのためにピートと別れることにするが、ここで唐巣に呼び止められてしまう。

唐巣とアンからは改めて謝罪があり、今後は唐巣のところで修行をすることになったと説明がされた。

アンも素直に謝罪したことで横島も幾分機嫌が直ることになる。


「先生。年ごろの女の子を預かるなんて、止めた方がいいんじゃないの?」

そのまま唐巣たちは令子にも謝罪をしに横島と一緒に美神事務所に行くが、令子はアンを預かると言う唐巣に心底呆れた表情をした。

令子自身も唐巣の元で修行していたから余計に呆れているのだが、生活力の欠如と度が過ぎた奉仕精神は年頃の女の子には無理だと思うのだろう。


「私も断ったんだけどね……。」

「まあお金になる仕事がないなら、回してあげてもいいけど。」

「すまないね。」

横島はおキヌと小竜姫が作ったお菓子でおやつタイムにしていたが、令子は唐巣の来訪が単なる謝罪ではないと見抜いたらしい。

もちろん唐巣の実力は確かだし、仕事がない訳ではない。

ただし無料で除霊してくれると評判の唐巣にはお金にならないどころか、経費で赤字になるような厄介な依頼ばかりが来るのだ。

流石に著名なヘルシング教授の孫娘にひもじい思いをさせる訳にもいかずに、お金になる依頼を紹介してほしいと頼みに来たのが令子にはバレていた。

一方の令子は留守中のヒャクメの営業の影響で、仕事が多くなっていて渡りに船だった。

もちろん仲介手数料はきっちり頂くが。


「モテる男は大変そうだな。」

「ピートさんには女難の相でもありそうですね。」

ちなみに横島と小竜姫と雪之丞は他人事だと、おやつ食べながらのんびりと見ていた。

アンに悪気はないんだろうが、ピートにべったりと引っ付いていて少し引き攣った顔のピートが見えるからだろう。

横島はモテる男が羨ましいものの、現状では小竜姫もいてそこまでコンプレックスを溜め込んでない。

明らかにめんどくさい女のアンなだけに、今回はあまり羨ましくなかった。


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