「いいのですか？　貴女が戻らねば風水盤を止めるなど簡単なことですよ？」

「お前こそいいのかい！　街にはまだ人間が居るんだよ！」

香港の市街地で始まったメドーサと小竜姫の戦いであるが技術的には小竜姫が上であり、実戦経験では未来を含めてもまだメドーサが上かもしれない。

小竜姫は二百年もの間メドーサとの戦いを糧に修行して来たのでかつての小竜姫よりは戦えるし、本人はまともに戦えば勝てる自信があったが今回の一件で改めてメドーサの厄介さを理解していた。

一言で言えばメドーサにはまともに戦う気などないのだ。


「避難勧告は出しましたよ。 それに従わぬ者など知りません。 それにどのみち風水盤が作動すれば結果は同じでしょう！」

「チッ！ あのボウヤと同じことを！」

「ふふ。 横島さんもそう言いましたか。」

互いに相手を精神的に揺さぶろうと会話をしながら戦う姿は第三者から見れば奇妙なものかもしれない。

ただ街に人はほとんど居ないことや先に超加速を見られた精神的な動揺からメドーサの方が若干追い詰められてはいる。


「あのボウヤか！ 貴様を変えたのは！！」

「貴女がそれほど私のことを気にしていてくれたとは嬉しいですよ。」

「気でも狂ったようだね！」

ビッグイーターが街を破壊しビルを壊しても小竜姫は気にする素振りすらなくメドーサに攻撃を続けていて、苛立ちを募らせるメドーサは小竜姫が変わった理由にまで言及してしまい小竜姫を笑わせていた。

かつては眼中にないような扱いをされて翻弄したメドーサが今は自分に対してここまで怒りを向けてくる姿が、不謹慎だが面白く感じ嬉しくも感じてしまう。


「貴女も自由になればどうですか？ 神族も魔族も人間も関係なく貴女個人として自由に生きればいいではありませんか。」

「ふざけんじゃないよ！　私はいつだって自由に生きてるさ！」

思えば小竜姫もここまで命を賭けた実戦などいつ以来か分からぬほど久々であり、ついつい過去のメドーサとの死闘を思い出しながら戦っている。

自分とメドーサは案外似ていたのかもしれない。

かつて小竜姫はそう考えたことがあった。

自分は神族に縛られメドーサは魔族に縛られていたのではと、過去となった未来のメドーサを思い出して考えたことがあるのだ。


「貴様こそ魔族にでも堕ちたらどうだい！ そしたらあのボウヤとの障害はなくなるよ！」

「残念ながら今のところ障害はありません。 天竜童子殿下が私と横島さんのこと認めてくれてますから。 貴女からすると皮肉ですかね。 貴女が殿下を狙わねば殿下が私と横島さんのことを認めてくれるなどありえなかったのですから。」

そして互いに力と力でぶつかりながら会話することで小竜姫は、今まで理解できなかったメドーサの気持ちをようやく理解出来ていた

メドーサは自分に嫉妬している。

その事実は未来となった過去にはないことだった。